【あの夏2018:金農旋風8/17、18】可美しき郷 我が金足♪甲子園の万有引力を教えてくれた全力校歌

逆転サヨナラ2ランスクイズ。金足農がこれ以上ない形でベスト4を決めた時、編集局中から自然と拍手が起こりました。日本人の誰もが、大切に秘めているふるさとへの憧憬。吉田輝星を中心に夢をかなえた青年たちが、曇りなきプレーで思い出させてくれたのです。甲子園の原点が詰まった、これぞ第100回大会の夏をもう1度。(2018年8月18、19日掲載。所属、年齢などは当時)

高校野球

高橋洋平、鎌田直秀

■2018年8月17日【3回戦:金足農5-4横浜】

横浜を逆転、8強入りを報じる2018年8月18日付1面。鹿児島実、大垣日大に続く強豪突破で、フィーバーに着火

横浜を逆転、8強入りを報じる2018年8月18日付1面。鹿児島実、大垣日大に続く強豪突破で、フィーバーに着火

「輝星の21球」で23年ぶり8強だ。第100回全国高校野球選手権大会は3回戦4試合が行われ、金足農(秋田)はエース吉田輝星(こうせい)投手(3年)が3戦連続の2桁となる14奪三振の完投で横浜(南神奈川)に逆転勝ちした。8回に高橋佑輔内野手(3年)の逆転3ランが飛び出すとギアを上げ、9回は4番万波中正外野手(3年)から始まる中軸を3者連続空振り三振に。161球目に自己最速タイの150キロをマークする底力でねじ伏せた。18日の準々決勝は近江(滋賀)と対戦する。

★8回逆転3ランで燃えた輝星 万波からKKK締め

白いマウスピースをかみしめた。

逆転直後の9回。吉田は横浜の4番万波の初球、いきなりインハイ145キロを放り込んだ。

銀傘にはね返ったどよめきを一身に浴びた。

9回の登板前。「シャキーン」ポーズも有名に。中軸を3者連続三振でフィニッシュ

9回の登板前。「シャキーン」ポーズも有名に。中軸を3者連続三振でフィニッシュ

聖地を味方に万波を4球で片付け、強打の5番内海への5球目。内角148キロで掘り起こすと、気迫で負けまいと内海が叫んだ。

淡々と145キロオーバーのつり球を集め空を切らせた。前の打席で適時打された6番角田はヘルメットを目深にかぶり、にらみ合いになった。

プレート板の立ち位置を左右に変えながら変化球を散らし、相手の出方を探った。

「プライドを捨てないと抑えられない。自分が一皮むけるためにも、プレートの位置をずらして投げた」

一転して4球目、この日161球目にアウトローへ150キロを制御すると、空気が一層、濃くなった。

「自分の力じゃ出せない、秘められた力。この前(2回戦)の試合の8、9回で149キロが出ていた。前よりも大きい喜びが、力に変わった。自分では出せない力を引き出してくれた」

最後の164球目は暴れた146キロのボール球。気迫で上回って振らせ、23年ぶり8強の扉を開けた。

★「9回投げきらねば、エースでね」

仲間が力を解放してくれた。高橋の逆転3ランが飛び出した8回。

二塁走者だった吉田はガッツポーズしながら「ベースランニング中から、どう抑えようかと考えていた。このプレッシャーを楽しめば成長できると思った」と冷静に本塁を踏んだ。

8回、高橋に逆転3ランが飛び出し、ボルテージがグッと上がった。仲間たちの気持ちも乗っかっている1枚

8回、高橋に逆転3ランが飛び出し、ボルテージがグッと上がった。仲間たちの気持ちも乗っかっている1枚

思い出したのは昨年の苦い経験。

2年生エースとして夏の県決勝に導いたが、連投のスタミナ切れで敗れた。続く秋の準々決勝も4-0の終盤8回に5点を失って逆転負け。

菅原天城コーチ(42)に秋田弁で言われた。「9回投げきらねば、エースでね」。

意識が変わった。

冬にはスタミナ強化で体重100キロに迫る打川和輝内野手(3年)を肩車で担ぎ、膝下まで積もる雪深いグラウンドを長靴で何度も往復した。

春以降はスタミナ温存のため、相手の力量を見て強弱をつける投球術を習得。1回戦の鹿児島実戦後に「3段階ある」と明かしていた自分のギア。9回は未知の領域まで上げたかと問われ、強くうなずいた。

横浜を突破した「輝星の21球」と3回の同点2ラン。特別な夏の主役に躍り出た。

「次こそ完封したい」と不敵に笑った。甲子園がまだまだ吉田を大きくする。

■2018年8月18日【準々決勝:金足農3-2近江】

2018年8月19日付1面。写真も見出しもはみ出しそう

2018年8月19日付1面。写真も見出しもはみ出しそう

金農旋風だ! 第100回全国高校野球選手権大会で、金足農(秋田)が逆転サヨナラ2ランスクイズで近江(滋賀)に勝ち、84年以来の4強進出を決めた。最速150キロ右腕・吉田輝星(3年)が左足股関節痛をおして10奪三振2失点で投げきると、9回裏無死満塁、二塁走者の菊地彪吾(ひゅうご)外野手(3年)が、斎藤璃玖内野手(3年)のスクイズで、三塁走者に続いて一気に生還した。第1回大会で準優勝した秋田中以来となる決勝進出をかけて、明日20日、日大三(西東京)と対戦する。

★9回無死満塁 逆転サヨナラ2ランスクイズ

菊地彪がホームベースに、頭から低く飛び込んだ。捕手のタッチより早く、左手を伸ばす。目の前にいた球審が両手を水平に伸ばしセーフを告げると、歓喜の輪が広がった。

「三塁を回ったら、一瞬でバーンって感じでした。最後はホームベースしか見えなかった。チームメートと抱き合って最高。今までに見たこと、味わったことのない光景でした」。泥にまみれたあごを左手でぬぐい笑った。

野球部NO・1の俊足。スクイズのサインを確認した時から「サードに転がれば、ホームまで行こうと思いました」。練習試合では2度試み、失敗なしの必殺技。

金農旋風がピークに達した瞬間。1点を追う9回裏無死満塁、2ランスクイズを敢行。二塁走者の菊池彪吾が生還した

金農旋風がピークに達した瞬間。1点を追う9回裏無死満塁、2ランスクイズを敢行。二塁走者の菊池彪吾が生還した

投手が足を上げた瞬間に遊撃手のすぐ後ろまでリード。「(斎藤)璃玖はバントがうまいので信じていました」。ゴロを確認すると「三塁手は背中越しで見えていないので、自分の判断でベースを思い切り蹴りました」。OBでもある中泉監督も「血が沸きました」と興奮するほどの、劇的2ランスクイズを成功させた。

★「彪吾」の名に違わぬ足

「彪吾(ひゅうご)」の名前は、アルプス席で観戦した母陽子さん(37)に「強くて、速くて、格好良い」と名付けられた。獲物を狙うヒョウのごとく、猛然とホームベースを仕留めた。

中3の運動会では徒競走で優勝。部活対抗リレーでも、陸上部に差をつけて野球部を頂点に導いた。高校には電車通学だが、仲間は「本数が少ない電車への滑り込みセーフも得意。危ないんですけれど」と笑う。

走塁練習は、キャッチボールより先に約30分間行う。3カ所のフリー打撃は1カ所をバント専用。シート打撃でも走塁とバント練習を兼ねて徹底してきた。

菊地彪は「バントと走塁は、自分たちの武器であり伝統。冬期間は凍える手で1時間、バントだけなんて日もあります。練習試合でもやってきた2ランスクイズ。100%セーフになると思いました」と胸を張った。

吉田はウイニングボールを受け取らず、近江に返した。健闘をたたえる心がこもった、スポーツマンシップの神髄

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84年以来の準決勝は、日大三(西東京)と対戦。ユーチューブで映像を見て、憧れてきた先輩たちに追いついた。「ここまで来たら死ぬ気でやる。目標は全国制覇なので通過点。甲子園全体の拍手が背中を押してくれました」。次の獲物にも泥臭く食らいつく。

★…準優勝 みんなが待つふるさとへ

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