三浦春馬さん 五代友厚の墓前に誓った妥協なき役作り/「天外者」田中光敏監督に聞く1

その輝きと軌跡は没後も色あせていません。三浦春馬さんは全身全霊を注いで撮影現場に立ち続けました。最後の主演映画のスタッフによる証言をもとに、その人間像に迫ります。

ストーリーズ

村上幸将

20年7月に30歳で亡くなった、三浦春馬さんと、最後の主演映画となった「天外者(てんがらもん)」に21年末、再びスポットが当たった。公開1周年を記念して、公開日の12月11日に全国304の映画館で特別上映が行われ、1日だけで興行収入(興収)2503万4640円、動員1万7623人を記録。累計の興収は、10億円を突破した。

さらに、34回目を迎えた日刊スポーツ映画大賞でも、新設された「ファンが選ぶ最高演技賞」を三浦さん、「ファンが選ぶ最高作品賞」には「天外者」が選ばれ、2冠に輝いた。そのことを受けて、次回作「法定相続人(仮)」の撮影準備中の、田中光敏監督(63)に取材をお願いした。そして、監督の口から語られる一言、一言から、三浦さんが「天外者」に全身全霊を注いだこと…その妥協のない役作りと、演技の奥深さを改めて知った。

「天外者」は、幕末から明治初期に活躍した大阪の実業家・五代友厚の生涯を映画にしようと、2013年(平25)に市民、有志が立ち上げた「五代友厚プロジェクト」に端を発する。17年、田中監督と同監督の映画「利休にたずねよ」(13年)「サクラサク」(14年)「海難1890」(15年)で脚本を担当した脚本家の小松江里子氏が、史実を元に日本の未来を思う五代の精神性を現代に伝えるべく、物語を創作した。

田中監督は、強い信念を持ち、透明感があり美しい五代のイメージにかなう、三浦さんに主演のオファーをしたが、クランクインは当初の予定より1年以上延びた。同監督は「本来だったら、忙しい三浦君だったら断られても、しょうがないというところはあるんですけども、彼は『天外者』のために1年、待ってくれた」と改めて感謝した。

三浦さんにとって、時代劇映画に初主演した「天外者」は、本当に大切な作品だった。その思いが、どれだけ深かったかは、クランクインまで1年以上、延びた間に行っていた取り組みが、全てを物語っている。

田中監督 所作、殺陣、日本の文化…そして五代友厚という人物を、いろいろな書籍を読んで勉強してくれた。殺陣の練習のために撮影所に通ってきて毎回、10日間くらいいた。

三浦春馬さんの主演映画「天外者」©2020「五代友厚」製作委員会

三浦春馬さんの主演映画「天外者」©2020「五代友厚」製作委員会

準備は役作りにとどまらなかった。三浦翔平(33)や蓮佛美沙子(30)ら、親交が深い俳優に声をかけて共演を呼びかけた。翔平には、五代友厚と志をともにする坂本龍馬を演じて欲しいと伝えており、後日、正式な出演オファーへと発展。その後、オフに台本の読み合わせを一緒にするなど、心を1つにした。

劇中で使う小道具にも、自らの思いを反映させた。五代は藍染めに力を入れたことで知られるが、三浦さんは全国47都道府県を4年半かけて回り、日本文化を追ったエッセー集「日本製」を20年に出版した関係で知った、徳島の藍染め工房のハンカチを使用したいと提案。田中監督は「撮影現場で『ハンカチを持つのなら、藍染めに出来ないでしょうか? 自分が全国を回っている時、五代とも関係のある、藍染めをやっているアーティストの方がいる』と、彼からデザインも含めて提案があった」と振り返った。

さらに、五代の命日の19年9月25日には、大阪・阿倍野区の墓所で毎年、営まれている墓前祭に、あくまで個人として参加。五代の墓に「しっかり五代さんの役を務めさせて頂きます」と誓ったという。

三浦春馬さんの主演映画「天外者」のポスター

三浦春馬さんの主演映画「天外者」のポスター

そうして、三浦さんは同年10月に京都の松竹撮影所でクランクインした「天外者」の撮影に臨んだ。時代劇映画初主演ということで、殺陣師や製作スタッフは、やや心配してリハーサルを見守っていたという。その中「刀を振る体幹をしっかり鍛え、着物で走るナンバ走りも、時代劇を経験しないと分からないような所作の基礎をしっかりやった。1年間、しっかり準備してきたものを見せてくれた」と、田中監督も納得の芝居を見せた。

「天外者」の、もう1つの難しさは「史実を再現するのではなく、その時、生きた人の心をどう描き、今の時代に、どうメッセージを送るか」という、五代の生きた時代の精神性を踏まえた、あくまで創作の物語、という点にあった。五代のキャラクター像に関する、田中監督の説明は「『今だけ、金だけ、自分だけ』という人が、今の時代は多いんじゃないだろうか? 五代が今の時代に登場したら誰かのため、何かの思いのために動ける…今の時代に必要な人」というものだった。それを聞いた三浦さんは「腹に落ちました。僕も、儒学を今、勉強しているから分かります」と納得したという。