那須凜「奇跡を感じながら演じたい」 発言の裏に作品ダブらせる怒りと舞台への情熱

東京五輪開会式の演出担当者が降板。「許せない怒りがマグマのように湧きあがりました」。那須凜の舞台に懸ける思いに迫る

ストーリーズ

林尚之


新劇界期待の女優、那須凜(27)。昨年の活躍で、若手を対象にした読売演劇大賞杉村春子賞を受賞した。過去に草■(■は弓ヘンに前の旧字体その下に刀)剛、菅田将暉らスターの受賞が多い中、劇団所属女優の受賞は21年ぶりの快挙。上演中のこまつ座「貧乏物語」(東京・新宿紀伊国屋サザンシアター、4月24日まで)では、くしくも27歳の新劇女優を演じている。

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「私自身27歳で、新劇の劇団青年座の所属。お話を聞いた時、そのままなので思わず笑ってしまいました」。大正のベストセラー「貧乏物語」の著者河上肇が戦前に治安維持法違反で投獄され、その留守宅に集まる6人の女性たちの姿を描いた井上ひさし作品。こまつ座初出演の那須が演じる女優クニの劇団は警察から上演停止を命じられ、クニは舞台に立つことができない。

昨年の東京五輪開会式に真矢みきらと出演した時、理不尽な状況を目にした。開会式の演出を統括した担当者が過去に演じたコントを問題視され、直前に降板した。「一緒にやってきたのに、上の方で決めて降板させられた。許せない怒りがマグマのように湧きあがりました。クニも大きな力によって舞台に出られない。今、私が舞台に出られる重みと奇跡を感じながら演じたい。この舞台ではどんなにつらい時にも明るさを失わない、女性の強さも見てほしい」。

母は元青年座の女優那須佐代子、父は俳優で演出家の大村未童。高校時代は荒れていて、遅刻の常習犯だった。「高校の文化祭で1度だけ私が脚本・演出をして劇をやったら、親や周囲からも褒められて、私の成功体験になりました」。卒業後に入所した青年座の研究所では遅刻もせずに通った。「ちゃらんぽらんだった私も変わって、何より演劇が好きになった。今は休みの日も舞台を見に行く、演劇っ子です」。

昨年は、母親と対立する娘を演じた「アルビオン」、大竹しのぶ演じるエリート医師を窮地に追い込む若手医師役の「ザ・ドクター」、70歳の作家を演じた「春の終わりに」など6本の舞台に出演。名前通りに凜(りん)とした演技が評価されて受賞した。「女優として自信がなかったけれど、神様に『ちょっと自信を持っていいよ』と言ってもらえた気がします。演劇に救われた私ですが、人のために芝居をやっていきたい」。7月に舞台「ザ・ウェルキン」で尊敬する母との初共演が待っている。

◆那須凜(なす・りん) 1994年(平6)10月12日、東京生まれ。2015年に青年座に入団。18年に青年座公演「砂塵のニケ」で初の主演に大抜てきされた。

杉村春子賞を受賞した那須凜(2022年2月撮影)

杉村春子賞を受賞した那須凜(2022年2月撮影)

★母から那須凜へ 那須凜から母へ★

○…那須凜は杉村春子賞の授賞式のあいさつで「女手一つで3人娘を育ててくれて、私の一番の味方であり、一番厳しい存在である母にありがとうと言いたいです」と感謝した。9年前に母那須佐代子が紀伊國屋演劇賞を受賞した時の授賞式には、高校生だった那須凜ら3姉妹も出席。その中で母は「文化祭も成人式もろくに出席できなかった母親で、娘たちには感謝しています」とあいさつしていた。9年の時を経て、栄えある賞のあいさつで親子の感謝のエールが実現した。

◆「貧乏物語」 マルクス経済学者で、大正時代のベストセラー「貧乏物語」の作者河上肇の評伝劇。初演は1998年(平10)で、こまつ座では24年ぶり再演。治安維持法違反で懲役5年の判決を受け服役中の河上の留守宅を舞台に、妻、娘ら河上を取り巻く6人の女性が、明るく人間らしく、豊かに生きることに目覚めていく姿を笑いと涙で描く。出演は保坂知寿、安藤聖、山崎薫、枝元萌、松熊つる松、那須凜。

◆杉村春子賞 1997年(平9)に亡くなった演劇界の大女優杉村春子さんの業績をたたえ、これからの活動が期待される新人・若手に贈られる賞。98年度から読売演劇大賞内に創設された。歌舞伎界から市川海老蔵、尾上菊之助、中村勘九郎、中村七之助をはじめ、藤原竜也、井上芳雄、草■(■は弓ヘンに前の旧字体その下に刀)剛、浦井健治、多部未華子、高畑充希、菅田将暉、そして故三浦春馬さんも受賞している。