TBS井上貴博アナ「人生RPG理論」予定調和ではなくハプニングを楽しむ/ラジオ編

注目の人、話題のこと。もっと知りたい、もっと読みたい。その思いをかなえます。TBS井上貴博アナウンサーが語る「人生RPG理論」とは・・・。

ストーリーズ

佐藤成

信念を貫く男だ。TBS井上貴博アナウンサー(37)。MCを務める同局系報道番組「Nスタ」(月~金曜午後3時49分)に加え、同局ラジオで初の冠番組「井上貴博 土曜日の『あ』」(土曜午後1時)が今春からスタートした。現在、週6日、3時間の生放送番組を担当する日本一忙しい司会者でもある井上アナのクールで爽やかなパブリックイメージからは想像できないほど熱い内面に迫った。

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番組開始3分前だった。「これ面白いね。(カメラの)切り替えもできるし」。スタッフがスマートフォンをもち、オンラインでスタジオとつなぐ形で準備を進めていたが、急きょ、井上アナ自身がスマートフォンを手持ちするスタイルに変わった。

この日のオープニングはスタジオにTBSラジオの田中ひとみキャスターを残し、井上アナが外から中継するという初の試みだ。

急な変更にも動じない。ペットボトルの水をひと口だけ飲み、本番に臨むその表情はマスク越しにだが、置かれた状況を楽しんでいるようだ。耳で田中キャスターのオープニングトークを聞きながら、内カメラと外のカメラを自在に使い分けてYouTube配信と連動したラジオの特性をふんだんに生かすオープニングとなった。

「生放送が好きです。ドタバタが好き。汚い生放送にしたい。悪意を持って誰かが壊すのは違うけど、生放送そんなにキレイにやったら収録でいいじゃんって思う」。

予定調和ではなく、ハプニングを楽しむことがテレビやラジオでは必要だと説く。「朝ズバッ!」時代、みのもんたの生放送に魅了されたという。「面白いっていうのは笑うだけじゃないと思います。ヒリヒリしている方が面白いですね。緊張が大好きですね。緊張と緩和じゃないですけど、緊張は面白いと思います」。

この日は他にもイレギュラーがあった。番組終了後、スタッフが突然、紹介しきれなかったゲストYOASOBIに関するメールについてのトークをYouTube用に撮ろうと提案。3時間の生放送を終えたばかりの井上アナは「それいいじゃん!」と、約10分の“YOASOBIトーク”を田中キャスターとともに繰り広げた。

イレギュラーなことを積極的に楽しむ姿勢は、井上アナがこれまでさまざまな場面で語ってきた「人生RPG(ロールプレーイングゲーム)理論」に通じている。身の回りで起こるあらゆることを、俯瞰(ふかん)して「ゲーム内の出来事」と楽しむ人生観だ。「RPGなので、困難な方が面白いと思いますね。オンオフの切り替えというのもあんまりないです。RPGの一環なので」とサラリ。

ラジオには、「『Nスタ』とは違う井上さんが見られて新鮮」といったコメントも多く寄せられる。文字通り鼻息荒く「局アナなめんじゃねえ」と反骨心を全面に出した初回のオープニングや、お笑いコンビ、オリエンタルラジオ中田敦彦との掛け合いなど、ハングリーな側面も垣間見える。井上アナは「結局、何者か分からないなっていうのが一番面白い。自分自身が分かっていないので」と言う。

「いつか自分が何者か分かりそうか?」と問うと、「分かるのかな…どこかで分かりたいと思っていないんですよね。分かったところで、どこかでそれはうそだっていっている」。

「井上貴博 土曜日の『あ』」オープニングで、TBS THE MARKETを訪れる井上貴博アナウンサー(2022年4月撮影)

「井上貴博 土曜日の『あ』」オープニングで、TBS THE MARKETを訪れる井上貴博アナウンサー(2022年4月撮影)

RPGを楽しむ上で、「分からない」ということに魅力を感じている。「いい意味で裏切り続けたいんですよね。お客さんを。ずっと裏切り続けたいんですよ。自分自身もどこか裏切りたい。ギャップって人間の魅力だと思うので。ギャップが無くなった瞬間にその人の魅力をぼくはあまり感じないので」。

はたから見ると多忙だが、本人はそのように感じはいない。「Nスタ」放送後には、ラジオフロアに来て、スタッフと雑談、アイデア交換をすることが日課となっている。「毎日が学園祭のよう。仕事というか、趣味という感じです。24時間ラジオという感じですね」。

3時間の生放送が終わると、大きく息を吐くこともなく、淡々と資料を整理して右耳につけていたイヤホンを外した。疲れた表情は一切見せず、スマートフォンで、何やらチェック。3時間の生放送を終えたとは思えないほど涼しげな表情だ。「時間は足りないですね。3時間ないとつらいなという感じです」。

学生時代、ラジオというメディアには、ほとんど触れてこなかった。就職活動の時に、ラジオも抱えるTBSを受けるため、必要に迫られて聴き始めたほどだ。一方で、目標として掲げる「日本一の司会者」になるために、ラジオは避けては通れない道だと思っていた。ラジオの魅力について「お聞きの皆さん、お客さんとの距離が近い。やってみて思ったのは、スタッフとの距離が想像以上に近いですね。四六時中連絡とっています。日々、学園祭ができるっていうのは、大きな魅力ですね」。

15年間のアナウンサー人生を「きつかった」と振り返る。「ずっと地べたはいつくばっている感じです。幾度となく辞めようと思ったし、辞めようとしていましたし。よくくじけずやったなとわれながら思います。ありがとうって思います。ようやく16年目の春に、ほんの少しだけ光が見えたというか、スタートラインに立てたかもと思います」。充実感はあまりない。むしろ焦る気持ちが強いという。

「井上貴博 土曜日の『あ』」スタジオで記念撮影する、左から田中ひとみ、大沢悠里、TBS井上貴博アナウンサー(2022年4月撮影)

「井上貴博 土曜日の『あ』」スタジオで記念撮影する、左から田中ひとみ、大沢悠里、TBS井上貴博アナウンサー(2022年4月撮影)

「日本一の司会者」とはどんな司会者なのか。「(具体的な)イメージはないですね。採点方法もないですし。でも誰もが、日本で一番の司会者は井上だよねっていわれることですかね」。

型にはまることや先人の踏襲を嫌う。では、何を武器にそれらと戦っているのか。即座に「生意気な部分」と返ってきた。「長所でもあり短所でもあると思うんですけど、どこか死にやしないって思っていますし、明日辞めてもいいと思っています」。

RPGのゴールは「日本一の司会者」ではない。「日本の投票率を上げたいっていうのは一つあります」とし「やっぱり日本のことが好きですし、日本を変えたい世界を変えたいってバカみたいに思っています」と明かす。

日本の投票率の低さは、エンタメや流行りものに走りがちなメディアに責任があると考えている。「これはテレビだけではなくて各メディアそうだと思います」。ドキッとさせられたこちらをよそに、「柔らかいニュースってどこかでお客さんをばかにしていないかと思っていて。知的好奇心とかって性別、年齢に関わらず、みんな持っているんですよね。それを全メディア柔らかい方向に逃げている」と持論を展開した。

「日本一の司会者」になることで、メディアの姿勢をも変えられると考えている。「日本のこと、世界のこと考えたり、老若男女が触れられたりする番組を作りたい。そしたら投票率なんてすぐ上がるんじゃないかなって思います」。もちろん、投票率が悪いことは、一概に否定すべきことではないとも理解している。「でもやっぱり国のことを考える世界のことを考えたりしたら投票っていくんじゃないかなって思う」。

そう熱っぽく語った後、「別にこんな話してもしょうがないので、一回も話したことないですし、見出しになりやすいので(目標は)日本一の司会者っていいます。初めて話しました」と付け加えた。

記者から絶対に目をそらさない意志の強さ。「日本一の司会者」さえも通過点のひとつと言う向上心。何かやってくれそうな予感がする。

◆井上貴博(いのうえ・たかひろ)1984年(昭59)8月7日、東京都生まれ。慶大卒業後、07年TBS入社。「はなまるマーケット」のリポーター「あさチャン ! 」「白熱ライブ ビビット」で進行役などを務めた。趣味は高校野球観戦。179センチ。