【マスターズ優勝の記憶】04年ミケルソン悲願「最後のパットは祖父が何かをして入れてくれた」

マスターズ史上に残る名勝負を制したのは、フィル・ミケルソン(米国)だった。最終ホールで6メートルのバーディーパットが決まった。47度目のメジャー挑戦。山あり谷ありだった人生に「オーガスタの女神」が味方した瞬間だった。(2004年4月13日紙面より。年齢、所属など当時)

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柳田通斉

<プレイバックセレクション>


◇04年4月11日◇米ジョージア州オーガスタ・ナショナルGC(7290ヤード、パー72)◇賞金総額650万ドル(約6億8250万円)◇出場44人(うちアマ2人)◇曇り

「メジャー無冠のレフティー」フィル・ミケルソン(33=米国)が、47回目の出場で悲願のメジャー初優勝を果たした。アーニー・エルス(34=南アフリカ)との激闘に勝ち、69の通算9アンダーで最も勝ちたかったマスターズを制覇。優勝賞金117万ドル(約1億2285万円)を手にした。2位はエルスで8アンダー。崔京周(33=韓国)が6アンダーでアジア勢過去最高位の3位に入った。タイガー・ウッズ(28=米国)は2オーバーで22位だった。

【最終成績】

<1>ミケルソン(279=72、69、69、69)

<2>エルス(280=70、72、71、67)

<3>崔京周(282=71、70、72、69)

<4>ランガー(285=71、73、69、72)

<4>ガルシア(285=72、72、75、66)

18番6メートル沈め「Oh My God!」

オーガスタの神は、ミケルソンにほほ笑んだ。18番。優勝をかけた6メートルのバーディーパットは、スライスラインに乗り、最後はカップの左側から回り込んで沈んだ。「Oh My God!(大変だ)」。絶叫し、跳び上がった。「フィール、フィール」。祝福コールを背に受け、夫人のエイミーさんと3人の子供たちと抱き合った。「パパ。やったよ」。蒸すような曇り空だが、その達成感がパトロン(観客)にもさわやかな風を送り込んだ。

マスターズ史上に残る名勝負だった。前半38と苦戦し、8番と13番で2つのイーグルを奪ったエルスが逆転。一時は3打差をつけられた。「またか…」。応援していた大勢のパトロンも、負けパターンを覚悟し始めた。だが、後半のミケルソンは強かった。12番で5メートルを決め、13番ロングは2オン2パット、14番ミドルでは第2打を15センチにつけて3連続バーディーを奪った。勢いは止まらない。16番でエルスをとらえ、最後18番のパットで勝負をつけた。

ミケルソンの優勝を伝える本紙(04年4月13日付け)

ミケルソンの優勝を伝える本紙(04年4月13日付け)

02年米ツアー賞金2位の男が、苦難をバネに立ち直った。昨年3月、待望の男の子エバンス君が誕生したが、エイミーさんは出産時の大量出血などから3分間の呼吸停止で生死をさまよった。「試合どころじゃなかった…」。母子が健康状態になったころ、03年同38位の「最悪のシーズン」が終わろうとしていた。

復活へ減量トレーニングを始めた直後に祖父アルサントスさんが97歳で死去した。「僕の優勝フラッグを集めてました。亡くなる前に『メジャーのがほしい。04年はお前の年だ』と励まされたんです。だから最後のパットは祖父が何かをして入れてくれたと思います」。同じレフティーで昨季覇者のウエアからグリーンジャケットを着せられ、この逸話を披露すると、また白い歯がこぼれた。

つかんだ自信も大きい。昨年までメジャーで3位以内が8回だったが、この日で「無冠のレフティー」の呼称を捨てた。「これがスタート。もっとメジャーを勝ちたい」。次の狙いは6月の全米オープンだ。

【こんな人】マスコミ用電話を無料で拝借

昨年9月、サントリーオープン出場で来日したミケルソンとは別人の姿だった。5キロの減量で引き締まった体形と正確なショット、巧みな小技と勝負強いパットも、あの時とは違いすぎた。

03年サントリーオープンのミケルソン

03年サントリーオープンのミケルソン

昨年は賞金ランク38位。不振の理由に、家族の問題があった。サントリーオープンで予選をギリギリで通過すると、報道陣の目も構わずプレスルームに設置された電話に飛びついた。米国のエイミー夫人との会話は10分以上続き、その後も何度もかけた。02年まで3年連続賞金ランク2位が、国際料金を気にしてか無料でマスコミ用を拝借していたのだ。

米ツアー23勝の実力者ながら、思い付きで大リーグ3Aチームのテストを受けるなど、周囲を困らせる面もあった。それがこの日は全身から、オーラが漂って見えた。オーガスタの女神がそうさせたのか? いや、これこそ本物のミケルソンなのだ。本来は右利きだが幼いころ、スイング練習中の父の前で鏡映しにまねているうちに左打ちになった異色の最強レフティー。次の来日が楽しみになってきた。