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裏CINEMA by相原斎
    2006/03/09 バックナンバーへ

最後まで緊張の解けない心理劇

−ヒストリー・オブ・バイオレンス(3月11日公開=米)−

 天才的な詐欺師が逮捕された後、偽造小切手を見破る能力を買われ、一転FBIに勤務する。レオナルド・ディカプリオとトム・ハンクスが共演した「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(02年)のあらすじである。実話に基づく作品ということだった。個々人の善か悪かの本質は生まれもったものなのか、それとも環境に左右されるのか、そもそも両方併せもっているものなのか。自分の心を覗いたところでなかなか解けないグレーゾーンが今作でもテーマになっている。

 小さな町の幸せな一家。夫はカフェを経営、妻は弁護士、純朴な長男と無邪気な長女、と絵に描いたような4人家族だ。ところが、ある日カフェを襲った2人組強盗に夫が反撃、あっさり殺してしまってから状況は一変する。事件は大々的に報じられ、夫は一躍ヒーロー扱いされるのだが、その報道を境に怪しい男たちが一家の周囲に現れるようになる。「本当のお前を知っている」「借りは返してもらうからな」。夫は取り合わないが、妻は男たちの異常な執着心に恐怖を覚え、知り合う前の夫の“正体”に疑いを抱くようになる。

 文字通り虫も殺さないような夫がみせた強盗事件の一瞬の迫力。そのもう1つの顔とは、そして彼は過去を清算して一家を守ることができるのか。後半は一気にスリリングな展開となる。

 メガホンは「ザ・フライ」(86年)「クラッシュ」(96年)のデイビッド・クローネンバーグ。初顔合わせとなった妻役のマリア・ベロが「彼の映画のせいでとても変な人だと思っていたの」と対面前のイメージを語っているように、その作品はどれもクセがあり、「異色」の形容が当てはまる。が、一方でその演出に触れた後は「ものすごく理知的で品位のある人だった」と先入観を覆されている。不気味さをアートの域に高め、娯楽の要素も色濃く織り込む手腕は、現場の出演者にいかにも理知的なイメージを与えるのだろう。

 家族のあり方、そして人間の善悪二面性など、めずらしく“まっとうな題材”に取り組んだ今作でも随所に彼らしさがまぶされている。夫婦間の2度のラブシーンはコスプレとレイプまがいというトリッキーな設定だが、決して唐突にみせないところが手腕である。

 小さな町の陽の当たる生活と夫の過去を象徴する夜の都会。光の加減でコントラストをつけながら、日常と非日常のようにまったく違う2つの世界も巧みにつなぎ合わせている。誰でも一歩間違えば“あちらの世界”に行ってしまうのだ、という危うさが伝わってくる。技巧という意味では、バイオレンスシーンの瞬発力は黒沢時代劇のそれをほうふつとさせる。

 「ロード・オブ・ザ・リング」(01年)のアラゴラム役で注目されたヴィゴ・モーテンセンを夫役に、「ER」の小児科医役が印象に残る妻役のベロと合わせ、夫婦はそろってアクが強い。クローネンバーグ作品の魅力にひかれたのだろう。エド・ハリス、ウィリアム・ハートと助演クラスも個性派がそろっている。

(このコラムの更新は毎週木曜日です)

【相原斎】

プロフィル
相原斎の写真 ◆相原 斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。80年入社。文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長を経て現在編集局次長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。
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