東大教授のRNA論文は「捏造同然」
東京大大学院工学系研究科の多比良和誠教授(53)の論文疑惑で、東大調査委員会(委員長・松本洋一郎同科教授)は27日「現段階で論文の実験結果の再現には至っていない」とする報告書を発表した。記者会見に同席した浜田純一副学長は「捏造(ねつぞう)同然とみえる」と述べ、多比良教授と主執筆者の川崎広明助手(37)の処分を懲戒免職も含めて検討していることを明らかにした。
大学側は、小宮山宏総長の指示で責任の所在などを調べる委員会を設置。教授の研究室を事実上閉鎖し、学生をほかの研究室へ振り分け始めた。
一方、多比良教授は同日「報告書には誤解がある。納得できない。自分から辞めるつもりはない」と述べた。
多比良教授は、リボ核酸(RNA)が遺伝子の働きを妨げる現象で、画期的な新薬開発への期待が高い「RNA干渉」の国内での第一人者とされてきた。
調査委は、日本RNA学会が教授らの論文12本について「再現性に疑問がある」と東大に調査を依頼したのを受けて、昨年4月に発足。当時の実験ノートや試料が残っていないことが分かり、川崎助手が主執筆者の4本について再実験するよう求めた。
教授側はその後、1本についてノートや試料が見つかったと報告。川崎助手が再実験をしたが、論文や報告とは別の試料が使われていることが判明した。
会見で平尾公彦同科長は「捏造の証拠はないが、その疑いは濃厚だ。地道な努力をしている多くの研究者にとって、正視に耐えない異常な出来事。病める科学の跋扈(ばっこ)を見過ごしてしまい、いまいましい」と述べた。調査委員の長棟輝行教授は「遺伝子材料が(再実験の)直前に作られた可能性がある」と指摘、浜田副学長は「研究費の返還もあり得る」とした。
[2006/1/27/15:10]
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