【第37回】
眼科的原因なければストレスの可能性
心因性視力障害
T子ちゃん(10)は小学校の視力検査で、視力が急に下がったことを指摘された。眼科を受診したところ、視力は確かに下がっているが、眼圧、前眼部、眼底の検査にも異常がなく、眼球そのものにも炎症はなかった。
思春期の子どもの中には、学校や家庭でのストレスが原因で、視力が急に低下する場合がある。T子ちゃんの家庭では祖父の介護の問題をめぐって、この半年間、家族が対立し両親が言い争うことが続いていたのだ。「眼科的、脳神経科的に原因が見つからない場合に、本人に知らせずに度の入っていないレンズをかけさせると『見える』と言い出すことがあります。この場合、本当は目が見えないのではなくて、心が見えない、いわゆる心因性視力障害と診断します」と説明するのは、子どもの目の診察を多く行うつやま眼科医院(千葉県市川市)の津山弥生医師だ。
男子で8〜12歳、女子の場合8〜11歳ぐらいに起こりやすく、女子は男子の約3倍の割合だという。「学校、家庭、塾、友達関係やいじめ、引っ越し、転校、親しい肉親の死など、ストレスはいろいろあり、最近、こういった症状を訴える子どもは増えています」。目そのものに異常がないと分かったときは、親子関係や学校での様子などを丁寧に聞いていく必要があるという。
「眼鏡をかけて目立ちたいという『眼鏡願望』がある場合もあります。また親に目薬をさしてもらうだけで満足し回復する子もいますし、逆に親が子どもに干渉し過ぎかなと感じるケースもあります」。視力障害の背後に、心の問題が影響していることを津山医師は指摘する。「親子で、別に診察室に入っていただき、親には心因性である可能性を告げます。親子関係や学校の状況などを聞きながら、周囲の環境やコミュニケーションのあり方について少しずつアドバイスをします」と津山医師。
精神的な問題があまりにも重症な場合には児童精神科医などと連係が必要なケースもあるが、多くは1年ほどかけてカウンセリングを行うことで、視力が徐々に回復していくことが多いという。気になる症状が出たときには、心の問題の可能性も考え、子どもの診察に慣れた子ども病院の眼科や、子どもと楽しく会話をしてくれる先生を選んだ方がいいだろう。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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