【第55回】
「自分だけは」は大丈夫じゃない
薬物依存症(2)
「薬物依存症になった人のほとんどは、最初『自分だけは大丈夫』と確信していたにもかかわらずハマってしまったのです」と自らの体験を交えて話すのは、東京ダルクのディレクター幸田実氏だ。ダルクは薬物依存症の人たちに回復の手助けをしたり、広報活動を行う自助グループで、都内の小・中・高校などで、薬物依存症についての講演を年間70回以上行っている。 現在、日本の子どもたちには「薬物は1度でも使用したら人間ではなくなるほど恐ろしいものだ」という教育がなされている。恐怖心に訴える教育は、多くの子どもたちにとって強い抑止力となっている。ところが、その一方で「もし若者が薬物を手にすることになった場合、それを手渡す人間は、中毒者に見えないし錯乱状態でもない。むしろ優しい人、理解者、味方、仲間、友達として現れる。そういった関係の中で薬物と出合った若者にとって、それまで大人たちが警告してきた恐ろしさはウソに見えてしまい、説得力を失ってしまう」と幸田氏は教育と現状の矛盾を指摘する。
ダルクでは薬物依存症の実態を以下のように説明している。
(1)なりたくてなった人はいない 「その気になればいつでもやめられる」と、だれもが言うが、自分で知らないうちに依存症になってしまう。ここに薬物の恐ろしさがある。
(2)コントロールができなくなる 薬物に支配されてしまい、自分の意志に反して使ってしまう。
(3)自分だけの力では治らない 適切な治療、回復への援助が必要となる。自分や家族だけの力ではどうしようもない。
(4)薬物の奴隷になってしまう 使えば使うほど、以前の量では効果が得られなくなる。徐々に量を増やすことで問題がさらに深刻化していく。
(5)自分では病気ではないと信じる 自分が「ヤク中」であるはずがない、そんなバカなことがあるはずがないと、心の病気であることを否認する。
(6)心身共に死に至る病である 症状が進行すると体はボロボロになり、友達や家族の信用を失い、社会的に孤立してしまう。場合によっては自殺に追い込まれることもある。
(7)周囲の人を巻き込む 自分ではどうしようもなくなって、家族や友達など身近な人たちを巻き込んで何とかしようとするが、どうにもならない。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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