【第56回】
悩みを認め表現する
薬物依存症(3)
「こ、こんばんは。…えっと…おれは、もともと緊張しやすくて気が小さいので、…何を話していいか、分からなくなるんですけど、薬物といっても、一般の薬屋さんで売っている、せき止めなんですね。昔、音楽をやっていたので、…配達の仕事もやって、ものすごくテンパっていた時に、みかねたバンドの仲間が、せき止めの薬はいいらしい…って、勧めてくれたので…、普通の薬局で買ってのんでみたら頭がスキーッとしてとても気持ち良かった。…依存症なんて考えもしなかったし、たくさんのむほど、調子がいいと考えてたんですね」。
せき止め薬の依存症から回復途中のT君(19)は約10分間、自分の体験を、とつとつと語った。T君に続いてアルコール依存症の中年男性や、薬物依存症の夫を持つ妻などが同じように体験を語る。50人あまりの人々が話に耳を傾ける。誰も反論も意見も言わない「言いっぱなし」の会は2時間で終了する。
西脇病院(長崎市)では、毎週火曜日の午後8時「夜間集会」と称して、年齢も性別も職業もさまざまな人が3階広間の大テーブルの回りに集まってくる。外来に通う患者、入院患者、家族、断酒会の人、アダルトチルドレンのグループなど、地域の誰もが望めば参加できる。
ここに集まる人々に共通するのは、アディクション=依存症に、関係や関心があることだ。西脇病院は早くから依存症の治療施設としてのスタイルを模索してきた。夜間集会は西脇健三郎院長の司会のもとに、参加者が自分の体験を話すというシンプルなスタイルで、28年間毎週1回欠かすことなく行われている。
「依存症の人はまず自分が酒や薬物など、何かにとらわれていることを理解することが必要なのです。依存症からの回復は、生き方のこだわりから解放される環境を作ること。医療でできるのは、救急の時の治療だけです。そのためには自分とよく似た体験をした仲間の話を聞くこと、そして自分自身を語ることなのです」と定期的に夜間集会を開くことの意味を西脇医師は説明する。
【ジャーナリスト 月崎時央】
|