【第59回】
「底つき」状態が治療のタイミング
薬物依存症(6)
「浪人中の19歳の息子がネットゲームにはまっています。予備校にも行かず、自分の部屋で昼夜関係なく、ゲームをしているようなのです。注意すると、『少し熱中するときがあるだけ。やめようと思えばいつでもやめられる』と怒り出します」と心配するのは母親T子さん(47)だ。
依存症の対象は、たばこ、コーヒー、酒、薬物といったモノのほかに、スポーツ、ギャンブル、ゲームなどの行為、恋愛やセックスといった人間関係までさまざまな種類がある。対象は何であれ、根底にあるのはストレスで、その人の生きにくさを別の形で表現するための行為であると考えると分かりやすい。
アルコール依存症や薬物依存症などの場合には、禁断症状が出たり、混乱、混迷状態になると、救急医療として精神病院を利用することになる。だが「医療行為は原則として急性期だけのものです。治療後、医療サイドができるのは、依存する行為が病気であるという知識の提供と、その行為を必要としないで生きる知恵をともに考えることだけです」と依存症の治療で有名な西脇病院(長崎市)の西脇健三郎院長は言う。「依存症で困っている周囲の人や家族は、いっときも早く、力ずくでも解決したいと焦るかもしれません。でもこれは事態を好転させません。待つことが大事なのです」。
「依存症は、はまっていることを否認する病気ですから、本人が治療を受ける気になるためには、それなりのプロセスが必要です。一般的にはお子さんがこの状態を非常に苦しいと感じるいわゆる『底つき』の状態になったときが、治療につなげるタイミングです」と本人が治療のチャンスを自分でとらえることができるよう、親が子どもの状態を辛抱強く見守り、このチャンスを逃さず後押しすることを勧める。家庭内の問題を第3者に相談するのは、勇気がいることだが、家族が、公的な相談機関や自助グループなどに参加して、依存症とは何かを理解しようとする気持ちを持つことが、解決に向けた近道なのかもしれない。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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