【第62回】
潜在期こそサポート必要
注意欠陥多動性障害(1)
16歳のK君は、小学校時代から落ち着きのない子どもで、忘れ物や遅刻が多かった。算数が得意で、他の教科も人並み以上にはできるのだが、カッとなりやすく友だちとケンカをすることも多かった。お母さんは5、6年の時の担任から「勉強はできるのでいわゆる注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、少し違うと思いますが、注意散漫で協調性もないのは気にかかります」と指摘されていた。
公立中学に進学し、相変わらず宿題を忘れたり、クラスの仕事をさぼったりはしていたが、子どものころのように、ちょこちょこ動き回ることはなくなった。だが、中学2年の後半から成績が急に下がり始め、得意だったはずの数学にも興味を示さなくなった。口数も減り、次第に何をする意欲もなくなってしまったようだ。「思春期になると、ADHDは治るという人もいますが、対処法を学ぶことはできても、それ自体は治りません。多動という目に見える行動が消えても、何かに集中できないという問題が、内に秘められた分、本人はより苦しみ、傷ついています」と自らの体験に照らして話すのは「当事者が語る大人のADHD」の編者のロクスケ氏だ。
ロクスケ氏は、ADHDの特徴をある種の脳の障害として当事者の立場から説明する。<1>瞬間的に意識が飛ぶ。継続してものを考えることができない<2>外界の刺激を遮断できない。周囲の視覚、きゅう覚、触覚などで常に気が散る<3>瞬間的な記憶ができない。相手の言葉を理解して記憶することが困難。「脳の情報処理にこのような特徴があるために、集中が困難で勉強するのも難しい。思春期はプライドも高くなっていて、失敗も怖いので、分かるふりをしたり、消極的になる。親にも相談できず、でも本人は非常に苦しんでいて、うつ状態になる子どもも少なくないのです」。
幼児期に落ち着きのなさのためにケガや忘れ物が多かったり、人間関係が難しくなっていて、本人が努力してもそれが治らないというような場合は「わが子が何らかの生きづらさを抱えて困っていると考え、ぜひ、具体的な援助の方法を工夫してあげてください」とロクスケ氏は経験者の立場から親にアドバイスをしている。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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