【第80回】
存在しない声が聞こえる
統合失調症(1)
「おなかがすいたなあと思うと、テレビのアナウンサーが食いしん坊! って言うの。何か食べるとダイエットしなさいとか。どこかに隠しマイクがあって盗聴されているか、テレパシーか超能力で私の行動や気持ちを全部読まれているのよ」とおびえた表情で話す高校1年生のK子だ。厳しい受験を乗り越えて進学校に合格したが、入学以来、頭痛がしたり、朝起きるのがつらかったりして、体調の良くない日々が続いていた。「嫌がらせをされるし、じろじろ見られるから嫌だ」と訴え、2学期以降、学校を休みがちになった。言動が少し奇妙なことを心配した母親が思い切って精神科を受診したところ、数回の診察の結果、統合失調症の可能性があると診断された。
「『自分のプライベートな情報が周囲に知れ渡り、噂になっている』とか『自分の気持ちが誰かに伝わっている』と感じて疑心暗鬼になると、偶然の出来事がみんな、自分と関係があるかのように見えてくることがあります。妄想と呼ばれる事態で、統合失調症を発症した患者に起こりやすいものです」と説明するのは、たかぎクリニック(京都市)の精神科医の高木俊介医師だ。統合失調症は100〜120人に1人がかかるポピュラーな病気で、思春期に発症することも多い。かつては入院治療が中心だったが、現在は治療可能な脳の病気と考えられ、外来での薬物治療が有効だ。
「実際には存在していない声が聞こえることを幻聴といいます。妄想や幻聴は不安、孤立、過労、不眠の4つの条件によって発症する場合が多いため、後悔や自分を責めるものになりやすく、本人にとって大変苦しい状態です」と高木医師は説明する。
治療には次の4つのポイントがある。
<1>不安、孤立、過労、不眠を減らすために日常生活の過ごし方を工夫する。
<2>精神科の専門医との相談を継続する。医師だけでなく、看護師、ケースワーカー、作業療法士、臨床心理士、保健師など相談できる人を見つける。
<3>当面、精神安定剤を服用する。
<4>本人のつらさに共感し、恐怖心を和らげる。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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