F1日本GP過去の歴史

【1996年10月14日付本紙より】

ヒル、初の親子総合王座!

 ◇10月13日◇三重・鈴鹿サーキット(一周5・86403キロ)全52周◇参加19台、完走13台◇晴れ、23・8度、南南東の風2・6メートル◇観衆13万9000人

 デーモン・ヒル(36=ウィリアムズ・ルノー)が1時間32分33秒791で優勝し、父グラハム(1962、68年王者、故人)に次いで史上初めて親子で総合優勝を果たした。ジャック・ビルヌーブ(25=同)が37周目にリタイアした時点で総合王者が決定。1周目から首位を守る完ぺきなレース運びで今季8勝目を挙げ、初の総合王座獲得に花を添えた。母国GPで4年連続リタイアとなった片山右京(33=ティレル・ヤマハ)は、来季の現役続行を宣言した。

1周目からトップ

 シャンパンファイトでずぶぬれになったヒルは「ロケットに乗って、今にも発進したい気分だよ」と、最大級の喜びを口にした。ジョージー夫人とは、キスの5連発。めったに熱くならない「静」の男が「動」に転じた。この瞬間をどれほど待っていたことか。

 レースはPPのビルヌーブが、スタート直後に5台に抜かれるまさかの展開で始まった。タイトル争いは、あっけない幕切れ。ビルヌーブのリタイアを無線で聞くと、一瞬だけチャンピオンを意識した。だが「すぐに王者の意識を捨て、レースに勝つことを考えた」と、振り返る。守らずに最後まで攻める王者らしさを貫いた。ついに全52周ともトップを譲らないパーフェクトな勝利で最終戦を飾った。

 レース前から「僕がF1にいる目的はタイトルだけ。わかるだろ」と話していた。レーサーだった父(75年に飛行機事故で死去)が現役時代に挙げた14勝は今季で超えたが、総合王者は取れないままだった。親子2代チャンプの実現で、やっと父に肩を並べた。

 ヒルは歴代25人目の総合王者だが、36歳での初獲得は21番目の高齢になる。モータースポーツ経験も23歳で始めた二輪が最初だから、遅咲きだ。F1フル参戦4年で21勝も挙げられたのは、単に最強マシンに恵まれただけではない。この日、「後方との距離を開けすぎず、疲れない程度に集中した」というレース運びに、焦らずに落ち着いて走る年輪を感じさせた。

 9月にウィリアムズからクビを宣告され、来季はアロウズへ移籍する。若返り策で解雇という苦い思いを経て、終盤戦を戦った。アロウズで総合Vできる可能性は薄い。年齢的にも今季がラストチャンスだった。「ああ、これでようやく寝れるよ」。いかにも大仕事を終えたという、柔和な表情で偉業をかみしめた。【織田健途】

 ◆デーモン・ヒル(Damon Hill) 1960年9月17日ロンドン生まれ。F1は92年、出身地の英国GPでブラバムからデビュー。ウィリアムズに移籍した93年に3勝、94年6勝、95年4勝、96年8勝。今回で出走67回目。通算21勝は歴代10位、現役ではシューマッハーの22勝に次ぐ2位。家族はジョージー夫人と2男1女。趣味はギター、ゴルフ。183センチ、73・5キロ。


ビルヌーブ37周目リタイア

 ポールツーフィニッシュで、奇跡の逆転総合優勝の青写真を描いていたビルヌーブが、37周目にその夢を断たれた。右後輪が外れ、リタイアした。34周目には最速ラップ(1分44秒043)を記録。1周目が6位と出遅れ、そのばん回が始まりかけた矢先だった。「スタートはエンジン回転が急に上がり過ぎた。私のミスだ」と、追いすがる報道陣に丁重に答えた。「デビュー当時、周囲は私がF1で通用しないと言っていたが、そんなことはない。勉強もできたし、自信にもなった」。25歳のルーキー貴公子は、真顔だ。F3000時代以来、4年ぶりの鈴鹿。「ファンの多さに驚いた。来年はもっと力を付けてくるから。そして、もっとリスクを冒したレースをしてみせる」。厳しかった目元が、シーズンの終わりと同時に、本来の優しさを取り戻した。


アレジはマシン大破

 スタート直後、最初のスプーンカーブで、アレジがまさかのリタイア。マシン後部が側壁にぶつかり、大破してしまった。婚約者で女優の後藤久美子の出産を控え、上位進出を狙っていた。「せっかく良いスタートが切れたのに……。精神的にすごく落ち込んでいる」と顔面蒼(そう)白でピットに戻ってきた。2年連続“妻”の母国でのリタイアに言葉も失いがち。「来年もベネトンに帰ってくる。目標を見つけてスタートしたい」。


右京また完走ならず

 日本人唯一の出走。母国のGPで気合は入っていた片山だが、エンジントラブルのため、38周目で4年連続リタイアを喫した。「ここまで4レース連続完走して、ようやく上り調子だったのに……」。前日12日の公式予選後、引退をにおわす発言をしたが、この日は「来年も走ります。自分がやめると言うまで走り続けます」と、引退を完全否定。来季のシートが決まらない不安定な状況だが「捨てる神あれば拾う神あり。いいチームからもオファーがきています」と、事態が好転していることを示唆した。


虎之介「早く走ってみたい」

 F1参戦を宣言した中嶋氏の秘蔵っ子、高木虎之介(22)が鈴鹿に現れた。テレビ局の仕事で決勝スタート前にフロントローで、中嶋氏と画面に。この日は、スタッフにガードされ、終始ノーコメント。広報を通じて「ビルヌーブはボクみたいな走りをしてしまった。早く(F1で)走ってみたい」と、語ったにとどまったが、内容は前向きそのものだった。ティレル・フォードのドライバーとして、中嶋氏が実際に高木のシートを認めたもようで、スポンサー契約を交わすPIAAの山本社長は「すべて中嶋さんに任せてあります」と、話していた。


順位 ドライバー チーム・エンジン タイム
1 D・ヒル ウィリアムズ・ルノー 1時間32分33秒791
2 M・シューマッハー フェラーリ 1時間32分35秒674
3 M・ハッキネン マクラーレン・メルセデス 1時間32分37秒003
4 G・ベルガー ベネトン・ルノー 1時間33分00秒317
5 M・ブランドル ジョーダン・プジョー 1時間33分40秒911
6 H−H・フレンツェン ザウバー・フォード 1時間33分54秒977
7 O・パニス リジェ・無限ホンダ 1時間57分58秒301
8 D・クルサード マクラーレン・メルセデス 1時間33分59秒024
9 R・バリチェロ ジョーダン・プジョー 1時間34分14秒856
10 J・ハーバート ザウバー・フォード 1時間34分15秒590
11 J・フェルスタッペン アロウズ・ハート 1周遅れ
12 P・ラミー ミナルディ・フォード 2周遅れ
13 R・ロセット アロウズ・ハート 2周遅れ
  E・アーバイン フェラーリ 40周目リタイア
  片山右京 ティレル・ヤマハ 38周目リタイア
  J・ビルヌーブ ウィリアムズ・ルノー 37周目リタイア
  M・サロ ティレル・ヤマハ 21周目リタイア
  P・ディニス リジェ・無限ホンダ 24周目リタイア
  J・アレジ ベネトン・ルノー 1周目リタイア
1位の平均時速は197.520キロ
最速ラップはビルヌーブの1分44秒043(34周目)平均時速は202.901キロ
タイヤは全車グッドイヤー


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