F1日本GP過去の歴史

【1998年11月2日付本紙より】

ハッキネン涙の優勝! 初の総合王者!

◇11月1日◇三重・鈴鹿サーキット(1周5・86403キロ)◇決勝◇51周◇出走21台、完走12台◇晴れ◇観衆14万8000人

 ミカ・ハッキネン(30=マクラーレン・メルセデス)が、参戦8年目で悲願の初タイトルを獲得した。最終戦優勝(今季8勝目、通算9勝目)で花を添え、フィンランド人ドライバーとしては1982年ロズベルグ以来16年ぶり二人目の総合チャンピオンとなった。コンストラクターズ(製造者)部門でもマクラーレンが総合V。逆転王座を狙ったミハエル・シューマッハー(29)、母国GPの中野信治(27)、高木虎之介(24)はいずれもリタイアした。


涙止まらず「この日が来ると信じていた」

 涙が止まらなかった。ハッキネンはチェッカーを受けると、右手で目頭を押さえながらビクトリー走行。「タイトルを取ったことは頭で分かっているが、クリアな映像が浮かんでこない。今の感情を言葉に出せないんだ」。初タイトルの実感を覚えないほど、夢心地になった。

 決勝は異例の幕開けになった。スタート直前、トゥエロの車が煙を噴き上げ再スタートに。今度は何とポールポジション(PP)のM・シューマッハーがまさかのエンスト。シューマッハーは最後尾に回され、再々スタートになった。

 自らが2位以上に入ればタイトルは決まる。ただ一人、逆転タイトルの可能性を残すシューマッハーが自分より20台後ろの最後尾に回されたため、両者の勝負はスタート前にほぼ決まった。それでもハッキネンは「油断できなかった」という。シューマッハーは3位まで猛追してきた。スタートから独走態勢だったが、自滅したら危ないと感じ「オーバーヒートに注意した」と水温計をにらみながら慎重にゴールを目指した。

 シューマッハーがリタイアした時点でタイトルが決まった。終わってみれば一度もトップを譲らないパーフェクトな優勝。しかし、ここまでのドライバー人生は回り道だった。「セナ二世」と呼ばれたF3時代、90年のマカオGPで先行するシューマッハーを抜きにかかってスピン。優勝をさらわれ、ワンワン泣いた。95年豪州GP予選では、タイヤバリアに激突。頭部を強打して、舌をかみ切り、意識不明の重体に陥りながら奇跡の復活を果たした。

 シューマッハーとの「マカオの因縁」に8年がかりでケリをつけ、生死をさまよった3年前から生還してのタイトル。悲劇の主人公ハッキネンは言った。「いつか、この日が来ると信じてきた。人生を振り返ることは得策じゃないと言い聞かせて」。決してあきらめなかったことが、勝利者への道を切り開いた。【織田健途】

(写真・上=優勝したミカ・ハッキネンはタイヤスモークをあげながらチェッカーを受ける。写真・中=2位のアーバイン(左)3位のクルサード(右)に肩車され、勝利の味をかみしめるハッキネン。写真・下=優勝したハッキネンはウイニングランで観客の声援に手を挙げて応える)


ミカ・ハッキネンプロフィル

 ◆生まれ 1968年9月28日、フィンランド・ヘルシンキ出身。
 ◆10歳から 10歳の時にカートレースに出場。カートでフィンランド王者を5回獲得。87年にカーレースに転向し、同年のスウェーデンFフォードで年間王者に。
 ◆F3王者 名門ウエストサリー・レーシングに在籍した90年、英国F3で9勝を挙げチャンピオンを獲得。「フライング・フィン」(空飛ぶフィンランド人)の異名をとった。
 ◆F1デビュー F3000を飛び越し、ロータスから91年米国GPでデビューしたが、60周目にリタイア。当時は元F1世界王者のケケ・ロズベルグが師匠だった。93年にマクラーレン移籍。
 ◆初表彰台 マクラーレン・フォードで参戦した93年日本GPでセナ、プロストに次ぐ3位に入り、初の表彰台に立った。
 ◆日本でCM 94年1月から流れた昭和シェル石油のCMで人気を上げた。
 ◆初優勝 昨年の欧州GPで初V。参戦95戦目の初優勝はブーツェンと並んで最も遅い記録だった。
 ◆結婚 今年夏、4年間交際していたエリヤ・ホンカネンさんと結婚した。

(写真=チャンピオンに輝いたハッキネンのシャンパンシャワーを浴びせられてビッショリの新妻エリヤさん)


母国フィンランド沸く

 ハッキネンの総合優勝決定の瞬間、母国フィンランドも沸きに沸いた。首都ヘルシンキの多くの飲食店は、レース開始時間の午前6時には特別に店をオープン。あるバーには350人を超えるファンが詰めかけ、画面でハッキネンの走りを見守った。ライバルのM・シューマッハーが32周目でリタイアし、ハッキネンの総合優勝が決まると、割れんばかりの大歓声。国民の5人に一人はモータースポーツファンというお国柄らしい熱狂ぶりが、この日はヘルシンキのどこでも見られた。


マクラーレンも総合優勝、ジョーダンは4位

 コンストラクターの優勝争いも、マクラーレンが156点で制した。88年から91年までセナを擁して4連覇して以来の優勝となった。2位はフェラーリで133点。また無限ホンダエンジンを搭載するジョーダンはこの日、ヒルが4位でゴールし3点を追加。34点とし総合でベネトンを抜き4位に浮上した。


ブリヂストン2年目で王座

 ブリヂストンが参戦2年目でチャンピオンタイヤとなった。海崎社長は「母国であり、ホームサーキットとも言える鈴鹿でタイトルを決めたことは大きな足跡になる。マクラーレンのスタッフ、ドライバーに本当に感謝したい」と喜びを表した。来季からはグッドイヤーが撤退。F1のタイヤはブリヂストンのワンメークになるが「期待が大きくなるというプレッシャーを感じる」と気を引き締めた。


シューマッハー18台ごぼう抜きも…

 逆転王座にかけるシューマッハーが、驚異の18人抜きで、観衆をクギ付けにした。2回目のスタート、最前列に位置するシューマッハーのマシンがわずかに動いた。クラッチの操作不能から起こったまさかのトラブルが、最後尾スタートという大きなハンディを与えた。

 それでも気迫のスタートで直線で8台をごぼう抜きし、ファーストラップを12位で走り抜けた。「シーズンを通してやってきたことを無駄にしたくなかった」。意地の走りで、19周目には1分40秒190の最速ラップをマーク。21周目には3位に浮上。信じられない追い上げで、ついにハッキネンの背中をとらえた。

 32周目、悲劇は突然おきた。シケインでの接触事故の残がいを踏み、右のリアタイヤが直線半ばで破裂した。痛恨のリタイアで、逆転の夢は消えた。失意のまま1コーナー入り口で立ち尽くした。心配しピットを訪れた弟ラルフと抱き合って、初めて悔し涙があふれた。「残念だけど、来年につながるいいシーズンだった」。レース後は、ハッキネンのマシンに駆け寄り、がっちり握手、互いの健闘をたたえた。敗れはしたが、シューマッハーの見せた執念は、来季のフェラーリに確かな手ごたえを残した。【浜口学】

(写真=右タイヤのバーストでリタイアしたM・シューマッハーは快走するハッキネンが映し出される電光掲示板の前で寂しくマシンを見る)


虎之介、トゥエロに中指を立てて怒り

 29周目のシケインを抜けようとした高木が、トゥエロに追突されリタイアした。ブレーキを踏み外したトゥエロのミス。巻き添えとなった高木は、中指を立てて怒りを表した。これが名目上ティレルとしては最後のレース。シーズン途中から、BARにチームが変わってテストも満足にできなかった。「今季の最初は良かった。でも、最後には車の差が出てしまった」と振り返った。レース後はメカニックと記念写真に収まった。

(写真=29周目シケインでトゥエロ(右)に突っ込まれリタイアした高木)


観客4年ぶり増加

 1994年(平成6年)に15万5000人を集めて以来、減少傾向にあった観客数が4年ぶりに増えた。決勝レースを観戦したのは14万8000人で昨年より8000人増。ハッキネンとシューマッハーの白熱した総合優勝争いが、ファンの足をサーキットに向けさせた。過去12回の開催のうち4番目の記録となった。94年はセナが事故死した年。セナの不在による日本人の「F1離れ」もようやく止まったようだ。


順位 車番 ドライバー チーム・エンジン タイヤ タイム
1 8 M・ハッキネン マクラーレン・メルセデス BS 1時間27分22秒535
2 4 E・アーバイン フェラーリ GY 1時間27分29秒026
3 7 D・クルサード マクラーレン・メルセデス BS 1時間27分50秒197
4 9 D・ヒル ジョーダン・無限ホンダ GY 1時間28分36秒026
5 2 H−H・フレンツェン ウィリアムズ・メカクローム GY 1時間28分36秒392
6 1 J・ビルヌーブ ウィリアムズ・メカクローム GY 1時間28分38秒402
7 14 J・アレジ ザウバー・ペトロナス GY 1時間28分58秒588
8 5 G・フィジケラ ベネトン・プレイライフ BS 1時間29分03秒837
9 6 A・ブルツ ベネトン・プレイライフ BS 1周遅れ
10 15 J・ハーバート ザウバー・ペトロナス GY 1周遅れ
11 11 O・パニス プロスト・プジョー BS 1周遅れ
12 12 J・トゥルーリ プロスト・プジョー BS 3周遅れ
  22 中野信治 ミナルディ・フォード BS 41周目リタイア
  3 M・シューマッハー フェラーリ GY 32周目リタイア
  21 高木虎之介 ティレル・フォード GY 29周目リタイア
  23 E・トゥエロ ミナルディ・フォード BS 29周目リタイア
  18 R・バリチェロ スチュワート・フォード BS 26周目リタイア
  19 J・フェルスタッペン スチュワート・フォード BS 22周目リタイア
  17 M・サロ アロウズ BS 15周目リタイア
  10 R・シューマッハー ジョーダン・無限ホンダ GY 14周目リタイア
  16 P・ディニス アロウズ BS 3周目リタイア
1位の平均時速は205.229キロ。
最速ラップはM・シューマッハーの1分40秒190(19周目)。
タイヤのGYはグッドイヤー、BSはブリヂストン


  nikkansports.comに掲載の記事・写真・カット等の転載を禁じます。
  すべての著作権は日刊スポーツ新聞社に帰属します。