バスケットボール日本代表の20年東京五輪出場に光が見えてきた。国際バスケットボール連盟(FIBA)から資格停止処分の制裁を受け、主催国なのに出場できない可能性が指摘されてきたバスケット界。しかし、Bリーグ発足から1年、明らかに流れは変わってきた。プロリーグをつくり、日本協会を改革した前会長の川淵三郎エグゼクティブアドバイザー(80)は、日本の東京五輪出場に太鼓判を押した。


●地球上にバスケする人は何人いると思ってるの?「4・5億!!」

川淵三郎JBAエグゼクティブアドバイザー
川淵三郎JBAエグゼクティブアドバイザー

 「東京五輪の主催国なのに成績が悪かったら出しませんなんて、初めのうちは言われていたけど、今は全然、そんなことはない。(東京五輪出場へ)1歩どころか、2歩、3歩ぐらい前進している感じ。そんなに心配していませんよ」。川淵氏は、にこやかな表情で言った。

 Bリーグ開幕前、日本協会の東野智弥技術委員長は、日本が東京五輪に自力出場を果たすための条件について「19年W杯中国大会に出て、ベスト16に入ること」と明言した。それからわずか1年。川淵氏の言葉には、五輪出場へ自信がにじみ、確信すら感じさせた。その背景には(1)FIBAとの信頼関係(2)Bリーグの盛り上がり(3)代表強化への手応え、があった。

 14年11月に、FIBAから国際試合参加禁止の制裁処分を受けた。その直後、川淵氏はFIBAのバウマン事務総長から日本協会改革のためのタスクフォース・チェアマン就任を依頼された。協会のガバナンスの立て直し、NBLとbjに分かれていた2つのリーグの統一。FIBAと相談しながら難題を解決していく中で、15年8月9日に制裁は解除。その後もFIBAが日本協会の動向を見守る監視機関は今年8月まで継続しているが、川淵氏はバウマン事務総長らFIBA首脳との信頼関係を作り上げていった。

 川淵 バウマンは日本のバスケットを発展させたいと真摯(しんし)な思いでやってくれた。Bリーグのチーム数や、協会の理事、評議員の数などで意見の違いはあったけど、日本の状況を理解して、ボクの意見を聞いてくれた。今は、日本と同じようにバスケット人気が停滞している国に、日本のやり方を紹介してくれている。日本がFIBAの役に立っているなんて、本当にうれしいね。


●発足1年「B」盛り上がり予想以上


 日本に第3のプロスポーツとしてスタートしたBリーグは、予想以上の盛り上がりを見せている。レギュラーシーズンの入場者数は昨季の約50%増し。全体で226万2409人の観客を集めた。チャンピオンシップファイナルは1万144人と初の1万人超えを達成するなど空前の盛り上がりを見せた。事業規模でも、米国のNBAにはかなわないものの、欧州各国のプロリーグの事業規模を1年で抜いたという話もある。


 川淵 3年前を思えば、感慨もひとしおだね。Jリーグが始まったときはすごく盛り上がったけど、ボクの周りには冷静な見方をしている人が多かった。「今の姿が本来の姿とは思えない。3年たって始めて、どう変わっていくか分かる」といった声があった。だけど、Bリーグが始まって、ポジティブな声しか聞こえてこない。いきなり45度の右肩上がりなんて考えられないけど、15~20度ぐらいの右肩上がりが継続して続くと確信しているね。


 日本代表の強化は、東野技術委員長を中心に着実に進んでいる。20年東京五輪を目指す日本代表のヘッドコーチに、アルゼンチン代表をロンドン五輪4強に導いたフリオ・ラマス氏(52)の招へいに成功。NBAのトレーナーを務めた佐藤晃一パフォーマンスコーチを加えるなど、スタッフの充実も図っている。全米大学体育協会(NCAA)のジョージ・ワシントン大でレギュラーとして活躍する渡辺雄太。NCAAランキング1位のゴンザガ大で、1年ながらトーナメント決勝のロースターに入った八村塁ら、〝東京五輪世代〟の台頭と、好材料が出てきた。


 川淵 日本はモントリオール五輪以来、五輪に出ていない。これまでは世界のバスケットを知っている監督がいなかったが、東野君が連れてきてくれた。渡辺や八村ら全米の大学で活躍する、今までにない選手も出てきた。東京五輪に明るい見通しができた。Bリーグ、日本代表とFIBAに対して日本がよくやっているというアピールはしっかり届いているよ。


 12年ロンドン五輪の英国代表は、世界ランクや強化状況が日本と似ている。11年時点で世界ランク43位(日本は16年8月時点で48位)の英国は、1948年自国開催以来、五輪出場がなかった。五輪直近の世界選手権も出場できなかったが、代表強化策が評価されて出場にこぎつけた。日本も、W杯中国大会の出場権を確保すれば、東京五輪出場はほぼ確実。万が一、出場権を逃した場合でも、FIBAから、代表強化やBリーグの成功が評価される可能性は十分にある。日本協会の三屋裕子会長は、五輪出場の条件について「最低でもW杯出場」と、ことあるごとに話している。

 日本協会の長年の無策によって、強化が進まなかった男子に比べ、女子はリオ五輪でベスト8。これまで通りの強化を続けていけば、五輪出場に問題はないといわれている。過去に、五輪開催国で男女のどちらか一方だけ五輪出場が認められなかったという例はない。川淵氏が言うように、Bリーグをさらに発展させ、日本代表強化策を着実に実施していくことが、20年東京五輪への自力出場につながっていく。【桝田朗】


Bリーグ初代王者になりトロフィーを掲げる栃木の選手たち
Bリーグ初代王者になりトロフィーを掲げる栃木の選手たち

■異常事態「2つのトップリーグ」3年前に制裁

◆男子バスケ経過◆

 日本のバスケットボール界は、05年からプロのbjリーグと実業団の日本リーグ(のちにNBL)に分裂。1つの国で2つのトップリーグが並立する異常事態が続いていた。問題を重視した国際バスケットボール連盟(FIBA)の勧告を受けて日本協会は08年にトップリーグ検討委員会を設置した。しかし、それでも両リーグの溝は埋まらず、13年2月にFIBAのパトリック・バウマン事務総長が緊急来日し「このままでは、東京五輪開催国として出場させるか検討しなければならない」と警告した。

 警告を受けても状況が好転しないことに業を煮やしたバウマン事務総長は、翌14年4月に再来日。日本協会に同年10月末までという回答期限を設け、それまでにトップリーグの一元化、ガバナンスの改善がなければ、国際大会に出場できない資格停止処分を含めた罰則を科す考えを示した。14年10月になっても、協会は当時の深津泰彦会長が電撃辞任するなどゴタゴタ続きで、問題解決能力のなさを露呈。ついに同年11月26日に、日本協会はFIBAから、国際大会参加を禁止する資格停止処分などの制裁を受けた。この決定を受け、出場が決定していた女子U―19世界選手権の出場権も剥奪された。その後日本協会は、タスクフォースのチェアマンに就任した川淵氏を中心に、協会のガバナンスの強化、新リーグ新設に向けた動きを加速。リオ五輪アジア予選が迫った15年8月9日に、日本の取り組みが評価され、制裁が解除された。


■女子メダル獲得へ 吉田主将を再招集

 女子は20年東京五輪でメダル獲得という明確な目標を掲げ、4月にトム・ホーバス・ヘッドコーチ(50)を迎えた。就任会見では「個人的には、五輪の決勝で米国を破り金メダルを取りたい」と野心的な抱負を語った。

 就任が決まると、リオ五輪で主将を務め、代表引退も視野に入れていた吉田亜沙美を「君の力が必要だ。リオで取れなかったメダルを東京で一緒に取ろう」と説得し、再びチームの主将に指名。7月にインドで開催のアジア杯へ向け、4月に米国遠征。24日からは欧州遠征を行い、早くも実戦で強化に努めている。

 リオ五輪では、フランスなど欧州の強豪を破り、世界ランク2位のオーストラリアを追い詰めた。さらに準々決勝では、優勝した米国と前半は互角に近い戦いを演じた。ただ、勝負どころで勝てなかった反省を生かし、当たりに負けないフィジカルの強化や、より激しい守備に取り組んでいる。

 今回から、アジア杯にはリオ五輪で惜しくも敗れたオーストラリアが編入された。強敵の加入でも、日本がアジア杯3連覇を達成できるか。メダルを目指す東京五輪へ向け、アジア杯は大事な試金石となる。


(2017年5月24日付本紙掲載)