ラグビーは2019年W杯だけじゃない! 男子7人制日本代表は、正式種目に採用された16年リオデジャネイロ五輪で4位入賞を果たし、20年東京五輪でのメダル獲得を目指している。課題の「選手確保」の打開策として、今年6月には日本協会が鶴ケ崎好昭(27=パナソニック)と初めて7人制の専任契約を締結。環境整備と並行しながら強化を進めている。7人制日本代表の総監督を務める岩渕健輔氏(41)に現状の課題、強化方針を聞いた。【取材・構成=奥山将志】


7人制ラグビーについて語る岩渕健輔氏(撮影・峯岸佑樹)
7人制ラグビーについて語る岩渕健輔氏(撮影・峯岸佑樹)

 日本ラグビー界にとって勝負の2年が訪れる。19年にアジアで初めて男子の15人制W杯が開かれ、翌年には東京五輪が開催される。15人制が「ベスト8進出」を目標に掲げる一方、7人制はメダル獲得を明確なターゲットに据える。

 岩渕氏 リオでは強豪のニュージーランドに勝つなど成果を残したが、やはり五輪はメダルを取れるかどうか。「ラグビー界にとって」という尺度は意味がない。日本に7人制の文化を根付かせるためにも、東京五輪では結果がすべてだと思っている。

 五輪後の16-17シーズン、日本は苦しんだ。世界の強豪が集うワールドシリーズで最下位となり、同シリーズに常時出場可能な「コアチーム」から陥落。要因は15人制を優先する選手が増え、主力となるメンバーがそろわなかったこと。そこに7人制が抱える難しさがあると岩渕氏は言う。

 岩渕氏 トップリーグ(TL)のチームは15人制で戦うことを前提として選手と契約しており、7人制の代表活動期間は選手を派遣する形で協力してもらっている。チーム事情などで出せないというのも当然のようにある。選手側から見ても、19年W杯は大きな魅力だし、そこで勝負したい気持ちは理解できる。15人→7人という順番的な難しさもある。

 日本協会は構造的な問題を解決すべく、7人制に専念する「専任化」を進めている。協会と選手及び所属チームが直接契約し、年間150~200日程度の代表活動に優先的に参加する。6月には、7人制の経験豊富な鶴ケ崎が、専任契約の第1号選手となった。

 岩渕氏 まずは、7人制でプレーする環境をいかに作るか。鶴ケ崎の契約はその第1歩。日本開催の五輪ということもあり、TLのチームの理解も深まってきている。東京五輪までに15~20人の専任選手を目指している。

 「似て非なる」7人制と、15人制。15年W杯、16年リオ五輪でともに代表入りしたのはWTB福岡堅樹(パナソニック)1人だった。W杯、五輪の両方で出場を目指している選手も少なくないが、岩渕氏は「2年前」をチーム作りの大きな節目とみている。

 岩渕氏 W杯後に7人制にチャレンジしてくれる選手がいるのはうれしいが、15人制に行ったら戻れないよというぐらいのチームを作らないといけない。メダルを取るために最低2年はメンバーを固めて戦いたい。2年というのは、W杯まで残り1年という時期。15人制もW杯へ選手はほぼ固まっている。そこが、7人制にとってもギリギリのタイミングだと思っている。

 五輪競技となったことで、世界の7人制への見方は大きく変わった。米国やカナダなど、15人制の「中堅国」は、強化しやすい7人制に力を入れ始めた。そんな中で日本が結果を残すため、アドバンテージは「ホスト国」であることだと岩渕氏は言う。五輪開幕3年前の7月末にはラグビー会場の味の素スタジアムで「五輪想定合宿」を行った。

 岩渕氏 選手村の場所からバスに乗って会場に行く。移動時間、暑さ、スタジアムの中、控室…。3年後、ここでやると思うことが大切。日本の武器はホームであること。準備できることは徹底的にやりたい。

 15人制、7人制の両方で桜のジャージーを着て戦った岩渕氏。それだけに、注目されにくい7人制に光が当たる東京五輪にかける思いは強い。代表チームの「拠点」となる施設を造る計画もあるという。

 岩渕氏 7人制はいつも15人制と比較され、15人制に続くものという見方をされてきた。帰属意識というか、代表チームとしてグラウンド、クラブハウスのようなものを持ちたい。場所があって、そこに1年を通して選手、スタッフがいる。東京五輪は大きなチャンス。環境面も結果も、未来につながる大会にしたい。


 ◆岩渕健輔(いわぶち・けんすけ)1975年(昭50)12月30日、東京都生まれ。小学3年でラグビーを始め、青学大2年時に日本代表に初選出。98年神戸製鋼に入社。00年7月に退社し、イングランド・リーグ「プレミアシップ」のサラセンズと契約し、日本人で初めて同リーグに出場。08年に7人制日本代表選手兼任コーチに就任。15年W杯は日本代表GM。15人制代表キャップは20。現在は日本ラグビー協会理事、男女7人制代表総監督。