楽天担当に頼んでテープ起こしを送ってもらった。1月30日の田中将大投手の楽天復帰会見。確認したかったことがあった。

田中将 正直、2020年オリンピック開催ということでしたので、自分は出られない立場にあった中で延期になって、日本球界に帰ってきて、出るチャンスがあるということなので、もうこれは心から、選ばれるんであれば、選ばれたなら僕はもちろん断る理由なんてないですし、出たいと思ってます。前回北京オリンピックに出ましたけど、悔しい思いをして終わってるので、野球がオリンピック競技からまたなくなってしまうという状況なので、自国開催ですし、金メダルを取りたいなとは思っています。

オリンピック(五輪)についての全コメント。音声も聞いたが、慎重に言葉は選んでいた。だが、そこに「開催できるか分からないが…」「コロナ禍でどうなるか…」と前置きはなかった。

純粋に出たいと言うのがはばかられる世の中になった。世界的なパンデミック、2割程度の国内開催支持率、そして相次ぐ開催国幹部の失言。そういう中で久々に聞いた純度の高い言葉だったように思えた。前置きがなかったから、といって引っ掛かった人は少ないのではないか。田中将の話し方、文脈から“大前提”は含まれていると、聞き手や読み手が感じることができるのだろう。

先日、侍ジャパン稲葉監督のキャンプ視察に同行した。ある球団で代表候補選手が五輪についての取材に応じなかった。今、発言することで誤解を招きたくないのだという。思いは十分に理解できた。軽々に話すより、黙して語らずも賢明な選択肢だと思う。語った田中将も、語らぬ選手も世間の心中を背負っている。

五輪半年を切っての舌禍。これでは機運が高まるはずがない。リップサービスだの、都合のいいように言葉を切り取られただの、そんな言い訳はうんざりだ。田中将のコメントは短縮されても誤解は生まない。誠実な思いや態度が伝わるからだ。襟を正した、飾らぬ言葉が今は聞きたい。【プロ野球担当 広重竜太郎】