98年長野オリンピック(五輪)でボランティアを経験した。現地入りする海外選手をつたない英語で案内もした。選手は自信とエネルギーに満ちあふれ、輝いていた。会話を交わしたり、感謝の言葉と笑顔を向けられると、素直にうれしかった。自国開催の五輪に少しでも関われていることが誇らしかった。異業種のボランティア仲間との交流も刺激的だった。今も楽しい思い出として記憶に刻まれている。

当時、住んでいた都内と長野県内の往復旅費は自己負担。学生の身には安くなかったが、お金では買えない貴重な経験だった。

最近、日本で選手のワクチン接種が検討され始めたが、ボランティアは対象外だ。選手村や会場で働く大会ボランティアだけでも約8万人。支給されたマスクや消毒液では、自身の安全だけでなく、選手にうつすリスクに不安を覚えるボランティアもいるはずだ。

選手のワクチンは国民向けの日本政府確保分とは別枠で、国際オリンピック委員会(IOC)が用意すると発表された。形は違うが、ボランティアも選手と同じ大会参加者だと思っている。全選手分のワクチンを用意すると決めたIOCが、希望するボランティアへのワクチン提供を俎上(そじょう)に載せなかったことは不思議だった。

ワクチン接種が進まない日本で、ボランティアの接種が現実的に無理なのは分かる。ただ、本来は選手に接触するボランティアのワクチン接種も進まないと、大会関係者がこぞって強調する「安心安全な大会」とは言い切れないと思う。

五輪に夏冬計7回出場した組織委員会の橋本聖子会長は、ボランティアとの対談で「競技成績以上に、我々をサポートしてくださるボランティアの方の行動や笑顔が記憶に残る。ボランティアは『大会の顔』だ」と感謝を込めて評した。

コロナ禍で、厳密な体調管理など自己負担がさらに増えた「大会の顔」。大会が開催されるなら、今まで以上に感謝と温かい気持ちが向けられることを願う。【五輪担当 近藤由美子】