◇1964年東京大会レスリング・フリー52キロ級5回戦(10月14日・駒沢体育館) 吉田義勝(日本) 判定 アリエフ(ソ連)

 伏兵吉田が難敵に見せたのが「吉田スペシャル」だった。1度も勝てなかった今泉雄策を差し置いての代表の座。それは今泉ら日本選手が勝てなかったアリエフを倒しての金メダルが期待されたからだ。コーチとなった今泉との徹底したアリエフ対策。相手を引き寄せる時にかかとに体重がかかるクセを逃さず、その瞬間に高速タックルで仕留めた。1―0で最大の敵を突破して、優勝を果たした。

 吉田の名が再び登場したのは半年後。日大卒業式に向かう総武線の網棚に金メダルを置き忘れた。すぐに警察に届けたが、見つからず。3日後に持ち帰った人が持ってきてくれた。金メダルを紛失するという前代未聞の騒動は、24年後の88年ソウル大会後に日大レスリング部の後輩でもある小林孝至が再現した。(2014年11月26日東京本社版掲載)