<東京オリンピック(五輪):体操>◇1日◇種目別あん馬◇有明体操競技場

32歳で初出場した母国での五輪。亀山耕平(32=徳洲会)は「誇りに思っていい、大会でした」と総括した。高難度の演技を通せば、メダルの可能性はあった。予選より構成を難しくした演技は、バランスが乱れ、14・600点で5位。悔恨と安堵(あんど)感で着地後は苦笑いしたが、去来した思いは前向きだった。

「この5年間は楽をしてきたわけじゃない」。自負が胸を張らせた。特にこの半年。「つらいっすねえ」と折れそうになった。それは独特の練習方法。ノイズキャンセリングイヤホンをつけ、2時間ほどは周りの情報を遮断し、己に向き合う。それを続けてきた。「惑わされない。この時間だけは集中する」。拠点の徳洲会では同僚も多いが、一切会話しない。自分の世界で動じずに試合を戦うため。

「その時に失敗したらそれは試合でもできない。試合は崖っぷちに立つので、日常と違う。人も環境も違う。そんな中で自分を惑わせてくるものがたくさんある」。そうならないために追い込む。ただ、それは孤独な作業だった。特に五輪があるのかないのか、惑わせる情報ばかり。「もっと苦労されている方もいる。自分は泰然としていることが必要なんじゃないか」と打ち込んできた。

演技後、「あー、しゃべれないなあ…」と、真っ赤な目を拭っていた。聞かれたのはあん馬の面白さ。「たぶん、自分だけのものじゃなくなってくるというか。いつも1人で黙々とやっていたら…、いろいろな人が応援してくれて…」。気づけば、家族も含め周りには支えが増えていった。それは「ノイズ」とは違う味方だった。

演技前に浮かんだ感情がある。「感謝と喜び」。それがこの舞台で示したいものだった。【阿部健吾】

あん馬の演技をする亀山耕平(ロイター)
あん馬の演技をする亀山耕平(ロイター)
あん馬で着地後、苦笑いを見せた亀山耕平(ロイター)
あん馬で着地後、苦笑いを見せた亀山耕平(ロイター)