ボート競技を始めたのは大学入学後という遅いタイミングでしたが、10年後の2016年、リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)で「オリンピック選手になる」という子供のころからの夢を実現させました。その後は、母国開催の東京五輪優勝を目標に掲げていたものの、昨春の国内最終選考レースで敗退。金メダルどころか東京五輪に出場することすらかなわず、競技引退を決めました。

引退表明後の数カ月は、オールを手にすることなく過ごす日々。新たな道を見据え、簿記の勉強も始めたりもしました。しかし昨夏から秋にかけて1カ月半ほど、母校にあたる一橋大の女子チームを指導する機会をいただき、競技者だったときには気づかなかった発見や、新たな興味が生まれました。指導を通じて母校に少しだけ恩返しできたことで、今度は日本のボート界全体の役に立てないかと思うようにもなりました。

思案の末に、海でレースをする「コースタル」という新しい種目の競技者として、再出発することを決意。28年ロサンゼルス五輪での採用が有力な種目で、日本が強くなるにはどうすればいいか、自分自身で“人体実験”してみようという思いもあります。

活動再開にあたり、クラウドファンディングを利用して資金を募りました。今年1月上旬から募集を始めたところ、約3週間で目標額の200万円を大きくクリア。自分のことを多くの方々が応援してくれていると知ることができて本当にうれしかったし、意識も変わりました。

今は、秋にポルトガルで行われる世界選手権が最大目標。これまで乗ってきたものに比べ、新種目のボートはサイズが大きく、2・5倍ぐらい重い。試行錯誤しつつも、こうやれば強くなれるという道筋は見えてきているとも感じています。1度引退する前に比べて効果的な筋力トレーニングを行えるようになったことで、ひとこぎあたりのパワーが約2割向上しているとの数値も出ています。

再挑戦する競技者としての可能性を示したい。自分史上最強になりたい。そんな思いを胸に、東京五輪への道を戦ったライバルで仲間たちの活躍を祈りながら、今は新たな航路に向かって進んでいるところです。(342人目)