車いすテニスで男子世界9位にランクされる真田卓(31=凸版印刷)が“愛車”の改良に乗り出した。21日まで福岡県飯塚市で開催されたジャパンオープンに出場した真田の車いすの座面には、両太ももの間にまたがるようなユニットが装着されていた。パフォーマンス向上のために自ら発案し、スポンサーの協力も得た新たなチャレンジ。そこには競技普及や社会貢献という大きな夢も込められている。

●ベニヤ板と発泡スチロール製ユニット装着で奮闘中

 「1番の目標は自分のパフォーマンス向上です。強くなって憧れられるような選手になりたい。車いすの形って何年も変わってない。僕の場合、右膝下の切断なので太ももから上の筋力は使える。下半身まひの選手と同じものより、自分に合ったものを使いたかった」

 真田の傍らにある愛用の車いすの座面中央前に黒いユニットが装着されていた。スポンサーで車いすメーカーのオーエックスエンジニアリングと総合デザイン会社GKダイナミックスに自ら提案、今年2月から試作品をテストしている。ユニットを両太ももで挟み込むようにしてボディーバランスを安定させれば、ストロークは威力を増し、制球は向上する。ただ、真田の思いはそれだけではない。

 「今回の試みが障害の違いに応じた車いす開発につながればと。それに僕は車いすテニスを健常者にも楽しんでもらいたい。見て面白いだけではなく、実際にプレーしてほしい」

 車いすテニスを障がい者スポーツの枠にとどめておきたくない。健常者が乗る競技用の開発までも思い描く。競技人口が増えればスポンサーも増え、大会も増える。その過程が障がい者が日常使用する車いすの品質、機能の向上に結びつくと信じている。

 現在は真田のアイデアをGK社がデザイン、具現化し、オーエックス社製の車いすに部品として装着する形で試行錯誤を繰り返している。ユニットはベニヤ板と発泡スチロールの手作り品だが、将来的には商品化も視野に入れる。

 「大金を払ってメーカーに頼めばスーパーオリジナルの車いすを作ってもらえます。でも、僕はやりません。普及につながりませんから」

 世界トップに君臨するステファン・ウデ(フランス)の車いすは約1500万円の特注品というが、誰もが乗れるわけではない。普及と社会貢献。日本で自ら車いすを改良しようという選手は、現在、真田だけ。夢を実現するには20年東京へ向けて成果を示すことが必要だ。ジャパンオープンでは優勝を狙ったシングルスで8強、ダブルスは4強。真田は愛車とともに今、韓国でツアーを戦っている。【小堀泰男】

 ◆真田卓(さなだ・たかし)1985年(昭60)6月8日、栃木県那須塩原市生まれ。中学時代はソフトテニス部。19歳の時にオートバイの事故で右膝関節から下を切断。リハビリの中で車いすテニスと出会った。ロンドン、リオデジャネイロ・パラリンピック日本代表。リオでは三木拓也とのダブルスで4位。右利きでフォアの強打は世界でも屈指。世界ランクの最高は7位。167センチ、60キロ。

 GKダイナミックス青木省吾シニアディレクター デザイン会社の立場から障がい者の方に貢献はできないかということで、真田選手を支援しています。まだ始めたばかりで手探りの状態です。彼のパフォーマンスが高まることが最大の目的で、商品化までは考えていません。

 オーエックスエンジニアリング安大輔氏 会社としてはより高性能なタイプを広く多くの選手に提供するのが基本です。同じ障害でもプレースタイルが違えば合う車いすも違うし、正解はないんです。ただ、真田選手の残存能力をフルに使いたいという気持ちを理解し、新たな技術開発の面からも彼の提案を受け入れました。

 ◆車いすメモ オーエックスエンジニアリングは国内トップメーカーで、車いすテニスの国内外の多くの選手が同社製を使用している。陸上用、バスケット用とも価格は20万~40万円ほど。選手によってホイールの大きさ、座面の高さ、補助輪の角度などを調整している。

<上地も新車投入へ>

 世界2位でジャパンオープンで5連覇を飾った上地結衣(23=エイベックス)も新しい車いすを試す予定だ。ホイールを大きくし、座面もこれまでより高くしたモデルが今月下旬にも届くという。今年を20年東京へ向けてすべての面で再スタートの年と位置づけ、技術、ギアの両面でテストを続けていくという。「コートを動くスピードが上がり、高いボールの処理にプラスになると思います」。実戦などで使いながら切り替えるかどうか判断する。