女子走り幅跳び(視覚障害T11)で、高田千明(32=ほけんの窓口)が4メートル49の日本新記録で2位になり、銀メダルを獲得した。昨年のリオ・パラリンピックでは8位入賞にとどまったが、3度目の世界選手権で初めて表彰台に立った。優勝は4メートル65を跳んだデダイ(イタリア)。

 高田はちょっと複雑な笑顔で口を開いた。「普通に、うれしいですね。(4メートル)50以上を狙っていたんですが、最後の1本はビックリしちゃって…」。5回目に日本新を跳んで銀メダル以上が確定。デダイの記録を目指した6回目は悔しいファウルに終わった。助走レーンを外れて踏み切りエリアを越え、止まろうと体勢を崩してレーンサイドに座っていた審判員にお尻からもたれかかった。「何か、オジサンの上に座っちゃいました」。全盲選手による種目でも珍しいシーンだった。

 それでも三度目の正直でメダルを手にした。掛け声と手拍子で跳躍を誘導する大森盛一コーチ(45)は「東京で金メダルを取るためにいいスタートになった」と評価。バルセロナ、アトランタ五輪代表で、バルセロナの1600メートルリレー5位入賞メンバーだった同コーチの指導を受け始めて10年。結婚、出産も経験しながら、地道に力をつけてきた。

 夫は聴覚障害を持つ陸上選手、高田裕士(32=エイベックス)。400メートルハードルのデフリンピック代表として現在、トルコに遠征中だ。都内の自宅では8歳の長男諭樹(さとき)君が知人と留守を守っている。障害を持ちながら世界に挑む姿を諭樹君に見せ続けることが2人のモチベーションであり、子育ての軸になっている。「息子にメダルを届けられます。よかったです。喜ぶと思います」。高田がようやくとびきりの笑顔になった。胸に輝く銀メダルは、23日から競技が始まる夫への最高のエールにもなった。

 リオで4メートル45、今年になって2度4メートル47を跳ぶなど日本記録を更新してきた。「東京で金メダルを取るために、これからも大きな大会で結果を残し、記録を出していきたいです」。アスリート、妻、母親として、高田のチャレンジは続く。

 ◆高田千明(たかだ・ちあき)1984年(昭59)10月14日、東京都大田区生まれ。5歳の時に先天性の黄斑変性(おうはんへんせい)症と診断され、高校3年で視力を完全に失った。中学、高校時代は陸上のほかバレーボール、トランポリン、卓球でも活躍。11年には視覚がい害者の世界選手権で200メートル銀、100メートル銅メダル。13年から走り幅跳びをメイン種目に。今大会100メートルは予選敗退。07年に結婚。身長160センチ、血液型B。