18年平昌パラリンピックのスノーボード金・銅メダリスト成田緑夢(25=フリー)が、男子走り高跳び(切断などT44)で自己ベストに迫る1メートル82をクリアした。

まさに“グリム・ワールド”だった。競技開始前のウオーミングアップで、成田が足を運んだのはバーのほぼ真横の約20メートル離れたフィールドとトラックの境界地点。助走のスタート位置を確認し、2度3度と練習ジャンプを繰り返すと、客席や報道陣から声が上がった。「まさか? あそこから跳ぶの?」。

通常はバーに正対した位置からスタートし、弧を描くように助走してジャンプする。成田以外の選手はみんなそうだった。ところが成田は、バーの左側真横からほぼ一直線に助走して試技を行った。

「横から走るのは今日初めてやりました。(障害のある)左足のターンをより強化するためで、エネルギーをもらう戦略なんです」。笑顔で説明した通りに1メートル70、1メートル76を軽く跳んだ。そして1メートル82を3回目にクリアすると、あっさりリタイアしてしまった。「今日の目的は新しい助走で82を跳ぶこと。だから100点です」。新たな試みは5月12日の北京GP後に取り入れたばかり。体への負担を考えて計5本のジャンプで競技を中止した。

その北京GPで日本記録の1メートル84をマークした。2月25日のドバイGPで1メートル81を跳んだのに続く自己ベスト更新だった。昨年11月に走り幅跳びで20年東京パラに挑戦することを表明してから好調にステップを踏んできたが、ここで助走を大胆に変えてしまうのも緑夢流だ。

平昌限りで冬季競技から引退したのを契機にスポンサー契約を見直し、今はフリーで活動する。この日のユニホームは純白でロゴもワッペンもなかった。コーチも現在は不在で1人で練習を続けている。これも緑夢流だ。

「東京には2メートル近く跳ばないと出られない。僕には跳べるイメージがあるんですよ。でも、それが東京に間に合うかどうか、なんですよね」。取り囲んだメディア関係者に身ぶり手ぶりで自分のジャンプを解説し、笑顔で会見を締めくくった。これも緑夢流だった。【小堀泰男】