全米オープン・テニスの車いすの部男子シングルスで5年ぶり7度目の優勝を果たした国枝慎吾(ユニクロ)と、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会が18日、オンラインで新型コロナウイルス対策について意見交換会を行った。ウィズコロナの中、世界中から選手が一堂に会する大会を成功させた全米オープン。国枝側からその知見を来夏の五輪・パラに生かしてほしいと、組織委に意見交換の打診があった。

組織委の遠藤利明会長代行は、来夏の東京大会開催に向けて「国際オリンピック委員会から世界のトップアスリートから経験を聞いてほしいと言われている。ありがたい申し出を頂きありがたい」と感謝の意を表した。

国枝の体験談を聞き、組織委の中村英正大会開催統括は「実際にスポーツ大会がコロナ下で行われているのを見ると来年夏、東京大会がないということなど、ないと思っている。いかに安心安全で乗り切るかだ」と勇気づけられていた。

報道陣に会合の中身は非公開だったが中村氏によると、国枝からの情報共有は20~30項目あり、入国からホテルに入るまで、会場入場時、練習時、練習パートナーとのやり取り、試合時、審判方法など多岐にわたった。

普段の試合ではボールボーイが選手にタオルを渡す場面も、今大会は選手自ら箱から取る形を採用した事例に中村氏は「スポーツのやり方も変わってきている。東京大会でもボールボーイへの新たな訓練やテストが必要だ」と語った。

国枝は大会中、PCR検査で陰性だった大会関係者が外部と隔離された空間(バブル)に身を起き続けた。「大会関係者が常に陰性だと思える環境は大きかった。コロナにビクビクして過ごすのではなく、集中力を持って試合に臨めた」との感想を述べた。

次期スポーツ庁長官の室伏広治氏(組織委スポーツディレクター)から「気分転換として散歩は行けたか」と質問を受けた国枝は、「ホテル内は散歩できるが、外に出ると『この先に出ると失格になる』という立て看板があったり、監視員もいた。外を散歩することは不可能でした」と答えた。

悩ましい課題が、検査の過程で擬陽性が出るケースや、濃厚接触者をどう定義づけるかの問題だ。国枝は「東京大会でもそこが大きな課題になると思う。どういう判断、対応をするのか、私自身も気になる」と述べた。

中村氏は「(全米オープンでは)濃厚接触者の定義の扱いが大会主催者側で揺れてしまい、一旦出した裁定がひっくり返ったと聞いた。東京大会に向けて、どういう場合に試合に出られなくなるのかというルールづくりをしっかりしないといけない」と述べた。

選手側からの異議申し立ても受け付けるルールづくりも必要だとし、「ドーピングの問題でもそう。きっちりやっていても選手側から異議が出ることもある。もし不満があれば、こういうステップを踏むという、穴のないルールづくりが必要だ」と強調した。

意見交換会を終え、東京大会を来夏に開催できるかを問われた国枝は「世界中から1点に集まる大会という意味では、全米オープンが一番オリパラに近いケースだと思う。無事クラスターを発生させることなく終了したことは、オリパラ開催へ1歩近づいたケースになるのでは。もちろんオリパラになると何競技にもなるので、これから組織委の方々がどう対策を講じるかがキーポイントになってくる。やってくれると信じています」とエールを送った。

一方の中村氏は「頑張ります」と、それを受け止めた。その上で「バブルの中での生活は長期間になるとストレスは感じるが、安心安全で思い切りプレーできるのでポジティブに捉えたとおっしゃっていた。我々も行動制約はお願いしなければいけないので、アスリートとしてどう受け取られるか気になっていたが、そうおっしゃっていただいて、やはり、安心安全な環境を提供することが最も大事だったと分かって良かった」と、今後のコロナ対策構築へ前を向いた。【三須一紀】