知的障がい者卓球の今年の日本チャンピオンが決まった。男子決勝は東京パラリンピック代表内定者同士の対戦になり、浅野俊(19=PIA)が竹守彪(27=TOMAX)を3-1(13-11、9-11、11-5、11-6)で破って大会2連覇を達成した。

マッチポイントは3球目攻撃だった。浅野は竹守の浮いたサービスリターンを右腕で思い切り振り抜いた。フォアのクロス。強烈なドライブがノータッチで決まった直後、少しだけ天を仰いだ。「ちょっとだけウルッときました。卓球をやってきて初めてです」。浅野は勝利の瞬間、涙がこぼ落ちそうになったことを正直に打ち明けた。

長崎の名門・瓊浦高の卓球部で全国高校総体優勝を目指していた。その夢が県大会でついえた直後の昨年6月にこの大会で初優勝。初出場だった7月のアジア選手権でも頂点に立ち、東京パラの出場枠も獲得した。活躍が認められて今年、医療機器製造販売のPIA(本社東京)に入社。選手は浅野1人だが、ユニホームの胸にはスポンサーのワッペンが複数入るなど、周囲の期待、重圧とも人知れず闘っていた。

新型コロナウイルスの影響で入社は6月にずれ込んだ。故郷を離れる寂しさと不安からか、上京前に「地元のおいしいものを食べまくって」89キロまで増えた体重も、その後の練習でベストに近い81キロまで落ちた。持ち味の強打に加えてフットワークにも磨きがかかり、攻撃の幅も広がった。

チキータ、フリック、3球目攻撃にカウンターと常に先手を奪って年長ライバルの得点能力を封じ込んだ。昨年の決勝以来の勝利で対戦成績は2勝4敗。それでも浅野は「ストレートで勝たなければいけない試合でした」とリードしながら失った第2ゲームを悔しがった。その姿を見守った佐々木信也コーチ(28)は「技術は高く、吸収力もある。自分で試合を組み立てられるようになれば、パラリンピックでもチャンピオンになれる。伸びしろは大きいです」と期待を込める。東京パラへ向かう2人の目標は「出場する以上は金メダル」。1次リーグから7試合で失ったゲームは2つだけ。大きな可能性を感じさせるV2だった。【小堀泰男】