女子走り幅跳び(義足・機能障がいT63)の19年世界選手権銅メダルで、東京パラリンピック代表兎沢朋美(22=富士通)が、1・7メートルの向かい風の中、4メートル56のアジア新をマークした。

ここは源平合戦の地で知られる屋島。「扇の的」の名場面が生まれた土地の風の神様は、あれから836年後のパラ陸上最高峰の“屋島の戦い”で、気まぐれだった。1回目の跳躍。ずっと背中から追っていた風は、兎沢のタイミングで運悪く方向が変わった。“弓流し”ならぬ“吹き流し”は完全に向かい風を示していた。「あれ? なんでだろう」。制限時間ギリギリ近くまで待つも、風は前から吹いてきた。

そして「やむを得なく」と走りだした。ただ、強化してきた助走は、不利な条件の中でもスピードに乗っていた。「理想に近い」タイミングで踏み切って、体は空中でふわり舞った。審判が“源氏の白旗”ならぬ踏み切り成功を示す“白旗”を上げる。そのジャンプは、自身が持つアジア記録を12センチも塗り替えていた。

向かい風は1・7メートルという悪条件だった。兎沢は「その中でもベストを更新できた。プラス(追い)の風であれば、もっともっと行けるという認識を持てた」と振り返った。2回目以降は、追い風の跳躍もあったが、記録は伸ばせなかった。とはいえ、着地や空中動作をまとめれば、もっと記録は伸びる手応えをつかんだ。

まだまだ通過点だ。世界強豪との頂上決戦となる東京パラリンピックへ向けて、兎沢は「最高の状態で本番を迎えたい。メダルには5メートルが1つの基準になると思う。そこを目指してやっていきたい」。4月から入社した富士通の同期には、男子走り幅跳びで世界選手権日本人初入賞を果たした橋岡優輝(22)がいる。“義経”級に強い? 仲間の活躍にも刺激を受け、オリとパラの枠を超えて切磋琢磨(せっさたくま)して、東京パラのメダルを射抜く。