5人制サッカー(ブラインドサッカー)日本代表が「声」で金メダル獲得を目指す。

24日の東京パラリンピック開幕まであと10日となった14日、都内で合宿中の日本代表川村怜主将(32)が、オンラインで会見。チームで導入しているボイストレーニングが、チーム力向上につながったと自信をみせた。強化された「声」が、視覚に障がいがある選手たちの金メダルへの武器になる。

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「声の質、出し方、ボリューム、確実に上がってきています」。パラリンピック開幕を10日後に控えて、川村は自信たっぷりに話した。全盲の選手たちにとって、音は唯一にして最大の情報。「互いのポジション確認、距離感など声が出せるようになって、成果は出ています」と説明した。

東京大会を目指す日本代表がボイストレーニングを取り入れたのは19年から。疲れて息が上がった時に声が出なくなることを改善するためだった。専門のボイストレーナーのもと、喉だけでなく体全体を使っての発声を練習。練習冒頭の声出しや、声を出しながらのウオーミングアップなどで「声」を磨いていった。

見えない選手は、唯一見えるGKとサイドライン外にいる監督、相手ゴール裏に位置するコーラー(ガイド)からの声で動く。そして、欠かせないのが選手同士の声。相手ボールを奪いにいく時に必要な「ボイ」の声を出すためにも、発声練習は重要だった。声の向上で「ノーボイ」の反則は激減し、選手同士の連係もよくなった。日本のチーム力は確実に上がった。

アジア予選で16年リオデジャネイロ大会出場を逃した後、高田敏志監督(54)が就任。東京大会に向けて強力なサポート体制がとられた。日本ブラインドサッカー協会によると、日本代表のスタッフは21人。分析スタッフ、メンタルトレーナー、管理栄養士…。そして、スポーツ界では珍しいボイストレーナーもいる。

パラリンピックへの準備は万全。今年6月に都内で行われたワールドGPで準優勝するなど、世界が認める存在になった。五輪で男女日本代表がメダルを逃したのを見届けた川村は「今度は自分たち。簡単な道ではないけれど、チームの目標は優勝、金メダル」と、力強く言い切った。【荻島弘一】

◆川村怜(かわむら・りょう) 1989年(平元)2月13日、大阪府東大阪市生まれ。5歳の時に患ったぶどう膜炎の影響で次第に視力が低下し、13年に全盲と診断される。小学生の時はサッカーに熱中。中学校入学後は危険を避けるために陸上の中距離を始め、大坂・日新高卒業まで続けた。鍼灸マッサージ師の資格取得を目指して筑波技術大に進学し、同大のサークルでブラインドサッカーに出会う。13年に日本代表に初選出され、15年から主将。アクサ生命勤務。169センチ、63キロ。

◆パラリンピックでのブラインドサッカー 出場8カ国で各4カ国2組に分かれて総当たりの1次リーグを戦い、各組上位2カ国が準決勝に進出する。初出場の日本がA組を突破するためには、4連覇中の世界ランク2位ブラジルと、08年大会準優勝で前回5位の同5位中国の格上2カ国との対戦がカギを握る。B組は順当なら同1位アルゼンチンと同3位スペインが準決勝に上がってきそう。日本は世界ランク、実績とも劣るが、6月に日本で開催されたワールドグランプリでは決勝でアルゼンチンに0-2で敗れたものの、1次リーグではアルゼンチンとスペインに引き分けるなど急成長しており、メダル獲得の可能性も十分ある。

◆5人制サッカー(ブラインドサッカー) 視覚障がいのある4人のフィールドプレーヤー(FP)と障がいのないGKがフットサルと同じ大きさのコートで行う。音の出るボールを使用し、選手はGK、監督、コーラー(ガイド)の声を頼りプレーする。1980年代から欧州、南米を中心にプレーされ、2001年に日本に上陸。04年アテネ大会で「5人制」としてパラリンピックに正式採用されると、16年までブラジルが4連覇した。日本はアジア予選を突破できず、東京大会が初出場となる。

○…新型コロナウイルス感染拡大でパラリンピックでも緊急事態宣言を発令されている東京都などの会場は、一般観客を入れない方向で調整していると報道されている。川村は「観客の大歓声に包まれたいというのが本音」としながらも「こういう状況なので無観客になると思います。(今年5~6月に都内で開催された)ワールドグランプリでも無観客は経験していますし、国内リーグも以前は観客がいないのが普通だったので、それほど気にしていない」と、心の準備はできているようだった。