リオデジャネイロ・パラリンピックの陸上女子400メートル(車いすT52)で銀メダルを獲得したマリーケ・フェルフールト選手(37=ベルギー)が11日(日本時間12日)、記者会見し、本人の意思に基づき医師が薬物などで死に導く「安楽死」を8年前に申請し、許可証を取得したことを明らかにした。

 「許可証がなければ私は自殺していた。安楽死は殺人ではない。より長く人生を送るためのものだ」。五輪公園内の会見場に集まった50人以上の各国報道陣を見据え、フェルフールト選手は落ち着いた様子で自身の選択を肯定した。「安楽死が認められれば自殺は減るだろう」と各国にタブーなき議論を促すが、安楽死が認められていない日本の障害のある当事者は戸惑いを隠せない。

 フェルフールト選手を巡っては、リオ大会直後にも安楽死すると欧州で誤って報道された。各国メディアの取材が殺到したことから会見した。

 10代半ばで脊髄の病気で下半身不随に。症状は進み、激痛や発作に苦しみながらも挑戦を続け、前回ロンドン大会では金、銀各1個のメダルを手中にした。しかし痛みは限界を超え、今大会での引退を決めている。

 ベルギーでは2002年に安楽死が合法化。フェルフールト選手は08年に必要書類に署名した。「(許可証の取得で)自分の人生は自分で決められると思えるようになり、心が安らいだ」と話し、安楽死をすぐに選ぶわけではないと強調した。

 治療による回復の見込みがない場合に薬物投与などで命を絶つ安楽死。日本では殺人罪に問われる恐れがあるが、オランダで01年に世界で初めて合法化され、ルクセンブルクでも09年に認められるなど広がりつつある。

 英紙ガーディアンの記者は「会見場の誰もが人生や死について考えさせられた。これまでで最も豊かな記者会見の1つだった」と伝えた。一方で、障害があり人権活動家でもある英女優の反対意見を9日付で同紙サイトに掲載。女優は「ウサイン・ボルトが同じことを言っても、人々は賛同するのか」と疑問を投げかけた。

 発言は、日本の当事者にも波紋を広げる。競泳の成田真由美選手(46)は「彼女が最善の道を選択するのであれば尊重するべきか…。あまり安易なコメントはできない」と戸惑った様子。

 重い障害で車いす生活を送る中西正司DPI(障害者インターナショナル)日本会議理事(72)は「安楽死の容認は『無駄な命は終わらせろ』という障害者否定論につながりかねない。パラリンピックの理念に反するのではないか」と憤る。