日本人初の9秒台が期待される男子100メートルで、日本最強スプリンター陣の挑戦が始まった。まず予選4組のケンブリッジ飛鳥(23=ドーム)が先陣を切った。向かい風0・5メートルの条件下、10秒13の2着。各組上位2着までが自動進出できる準決勝切符を着順勝負で決めた。山県亮太(24=セイコーホールディングス)も10秒20の8組2着で、2大会連続の準決勝進出。ケンブリッジと山県は、日本人84年ぶりの決勝進出を目指す。

 「すごいな~」。ケンブリッジは午前中から大観衆が押し寄せ、ブラジル国旗にちなんだカナリア色の衣服を着た観客がウエーブする光景を目にして、心が湧き立った。緊張などまるでない。スタート直前に楽しさに満たされていた。

 同組9人で自己ベストで9秒台が4人。タイム的には6番目の男だったが「速いなと思ったけど、チャンスはあると前向きになれた」。号砲とともに9レーンからステップを踏み出す。片側レーンに人がいない大外は競り合いができずに不利とされるが、加速は十分。青のトラックに、サンライズレッドの弾丸が映える。「後半もしっかり走れた」。終盤に追い込んで2位に飛び込んだ。

 前夜も快眠。むしろ「楽しみすぎて」5時に目が覚めたという。レース後のインタビュー中にもスタンドを見てニコニコ。先月の東京高の壮行会では、お祭りで着る法被をプレゼントされ、「法被でハッピー」のダジャレまで披露した。お祭り好き?

 らしく、大舞台でも高揚感が走りを加速させた。

 日大に入学時はウエストが女性のようだった。体ができておらず、渕野コーチからは「こんなに細いの?」と驚かれた。それから4年。筋肉のよろいをまとい、世界の強豪と堂々と渡り合った。山県とともに進出した準決勝では、「ずっと目標にしていたファイナル、9秒台出さないと難しい。今のベストの走りをしたい」。“お祭り男”の夏は、まだまだ熱くなる。【阿部健吾】

 ◆ケンブリッジ飛鳥(あすか)1993年5月31日、ジャマイカ生まれ。2歳で大阪に移住。小学校はサッカーで中学校から陸上を始める。東京高、日大を経て今春からドームに入社。13年東アジア大会の男子200メートル優勝。6月の日本選手権100メートルは10秒16で優勝し、五輪代表を内定させた。自己ベストは100メートルは10秒10、200メートルは20秒62。家族は両親と妹。179センチ、79キロ。