男子100メートルの世界記録保持者ウサイン・ボルト(29=ジャマイカ)が、同種目五輪史上初の3連覇を達成した。追い風0・2メートルの準決勝は9秒86で1着。同じ風の決勝は9秒81で、ライバルのガトリンに圧勝した。84年ロサンゼルス大会、88年ソウル大会を制したカール・ルイス(米国)を超える3連覇で、五輪通算7個目の金メダルを獲得。「最後の五輪」は200メートルと400メートルリレーを残しており、不滅の3大会連続の短距離3冠を狙う。

 自分の勝利を1ミリも疑わない。ボルトは中盤からぐんぐん加速した。70メートル付近で先行するガトリンに並ぶと、視線を上げて競技場内の大型画面を見た。わざわざガトリンとの位置を確かめてから一気に置き去りにした。今季自己最高の9秒81。ゆっくり場内を回ってカメラの前でお決まりのポーズをさく裂させた。

 「ハッピーだ。(タイムは)速くはなかったが、勝ったことはうれしい。いつだってオレのことを疑うやつがいるんだ。でもオレはやってやったぜ」

 7月のジャマイカ選手権決勝を左足の違和感で欠場したが、けがに伴う救済措置で五輪出場が決まった。一発選考方式をとる米国のガトリンから「オレたちの国ではないこと」と批判された。ボルトは、そのガトリンに不快感を表明した。8日の会見では「メダルをとるにはメンタルが大切。特にレースの最後の瞬間はメンタルが重要なんだ」と力説。司会者から「それは(大舞台で勝てない)ガトリンのことかい」と聞かれてニヤリ。会見の最後にはサンバを踊ってみせ、足の回復具合をアピールした。

 “前哨戦”もあって、対決ムードは最高潮だった。さらに決勝前には過去に薬物違反で処分されたガトリンへの大ブーイングが起こり、異様な雰囲気に包まれた。「スタジアムがあんなふうになるのは初めて、驚いた」とボルト。だが終わってみれば、いつも通りの逆転勝ちだった。

 史上初の男子100メートル3連覇。12年ロンドン大会で「全然尊敬していない」とけんかを売った「宿敵」カール・ルイスを超えた。08年北京大会から五輪で負け知らずだが、数年前から誰かに追いかけられる夢を見るという。「どんなに速く走っても逃げ切れない」。そんなプレッシャーにも打ち勝ってきた。

 「最後の五輪」と明言した今大会は200メートル、400メートルリレーにも出場を予定。「誰かが言った。オレは不滅の存在になれるって。あと2つの金メダルをとって締めくくってやる。そしてオレは不滅の存在になる」。3大会連続の短距離3冠を目指し、ボルトのラストダンスが始まった。【益田一弘】

 ◆ウサイン・ボルト

 1986年8月21日、ジャマイカ・トレロニー生まれ。09年世界選手権の100メートルで9秒58、200メートルで19秒19の世界記録を樹立。08年北京、12年ロンドン両五輪で100メートル、200メートル、400メートルリレーの3種目を制覇。196センチ、95キロ。<ボルト発言で振り返る過去2大会の100メートル>

 ◆08年北京五輪

 胸をたたきながら余裕のフィニッシュで、9秒69の世界新記録。「勝てると分かったときは、それはもうハッピーな気分だった。ウイニングランを終えるまで、自分が世界記録を出したとは気付かなかった」

 ◆12年ロンドン五輪

 決勝8人中7人が9秒台を記録する大激戦。最後は体を前に倒し込む全力疾走で、9秒63の五輪新記録。「オレが負けると疑っていた人もいただろう。だから自分が世界で最も偉大だと証明しなければならなかった。この金メダルでまた1歩、伝説に近づいた」