リオ五輪男子マラソンにカンボジア代表として出場した猫ひろし(39)は見事に完走した。記録は2時間45分55秒(速報値)。自己ベストの2時間27分48秒には及ばなかったが、有力選手を含む15人が棄権する中、155人中139位でフィニッシュした。「最高の42キロでした。悔いはありません」。その表情は晴れ晴れとしていた。

 芸人魂は忘れていなかった。苦しそうな顔だったが、両手を上げてお決まりの「にゃー!」のポーズでゴールを駆け抜け、ガッツポーズもして喜んだ。その後もスタンドをあおって盛り上げるなどして夢舞台をかみしめた。

 降りしきる雨の中、紺色のキャップと本名「TAKIZAKI」のゼッケンをまとった身長147センチの小兵は、スタートしてすぐ、あっという間に先頭集団から離された。5キロ地点で155位の最後尾を走った。10キロ地点では1人抜いて154位となり、かぶっていたキャップも投げ捨て、必死の形相で走り続けた。30キロ地点では2人を抜いて147位と奮闘。35キロ地点でも1人抜き、ゴール目前の40キロ地点で140位まで順位を上げた。終盤にかけて脱落者が続出した。「最後、本当にきつくても絶対に歩かないとそれだけは(思った)。後ろの選手が押してくれて、負けられないと思って頑張りました」。

 目標だった「自己ベスト更新」はかなわなかった。「もう少し粘りたかったけど、カンボジアの人も日本の人も、ブラジルの人までもが応援してくれたのでよかったです」。

 カンボジア国籍を取得してかなえた夢舞台。表情は達成感に満ちていた。「おいしいものが食べたい。(今後のことは)ゆっくり考えたい」と話したが「50歳、60歳になっても、チャンスがあればまたやりたい」と五輪再挑戦への意欲も示した。「カンボジアには感謝しかない。カンボジアからまた日本に出稼ぎに行きます」。最後は芸人の顔に戻った。

 <猫ひろし五輪出場まで>

 ▼05年

 競技経験ゼロから、TBS系「オールスター感謝祭」内コーナーの「赤坂ミニマラソン」をきっかけに競技開始。

 ▼08年

 東京マラソンでフルマラソン初挑戦。3時間48分57秒で完走。

 ▼11年6月

 カンボジア国籍取得及び12年ロンドン五輪を目指していることを明かす。

 ▼同11月

 国籍取得。「チュマール(カンボジア語で猫)ひろしです」。

 ▼12年3月

 ロンドン五輪代表内定。「世界新記録で金をとる」。

 ▼同5月

 国籍取得からの期間が短いなどのために内定取り消し。「本当にごめん」。

 ▼15年

 東京マラソンで自己最速2時間27分48秒を記録。

 ▼16年6月

 リオ五輪代表決定。「最高のコンディションで自己ベストを」。