20歳のホープ広中璃梨佳(りりか、日本郵政グループ)が初優勝し、東京五輪の女子1万メートル代表に内定した。

31分11秒75で参加標準記録(31分25秒00)をクリア。1万メートルは2度目の挑戦ながら、その高い能力を示した。長崎商高ではエンゼルス大谷翔平投手(26)が花巻東時代にやっていたことで知られる「目標達成シート」で進化。夢をかなえる探求心で強くなった。6月の日本選手権5000メートルではダブル代表入りを目指す。

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両腕を大きく上げた。広中は会心の笑顔でフィニッシュラインを駆け抜けた。注がれる万雷の拍手にトレードマークの帽子を取り、頭を下げた。「まずは切符を取れてうれしい」。勝負を決めたのは残り3周。並走でためた力を解き放ち、安藤との一騎打ちを終わらせた。1万メートルは4月10日に初めて走ったばかり。2度目の挑戦にして、東京五輪の切符を手にした。「1つステップアップにつながる形のレースができた」。主戦場の5000メートルに向けても大きな自信を手にした。

長い手足を持ち、力強い腕振りが推進力を生む超逸材。長崎・桜が原中3年以降、出場した全駅伝で区間賞。そのホープの進化を支える1つが目標達成力だ。

長崎商高2年の秋だった。「こういうのどうですか?」。そう卜部善信監督に提案したのは、大谷が花巻東高時代にやっていたことで有名になった目標達成シート、通称「まんだらチャート」。81マスの中央に「都大路」と記し、それを達成するため、必要な行動と要素を細かく、具体的に整理した。県内は全国的な名門である諫早の1強状態。あえて簡単に全国へ行ける道は選ばず、「打倒諫早」の環境に身を置いていた。思いは最後に実を結ぶ。チームは3年時に全国高校女子駅伝(都大路)に悲願の初出場を果たした。

そして今も自分に足りない部分を突き詰め、強さに変えている。「日本選手権の悔しさをずっと思っていた」。昨年12月の日本選手権5000メートル。田中希実に残り1周で先頭を譲り、代表内定を逃した。レース後。「また一段と強くなった広中璃梨佳を見せたい」と大粒の涙を流していた。その負けを糧とし、勝負強さに磨きをかけた。「チャレンジ」として未知だった1万メートルに可能性も広げた。

東京五輪へ向けては「今後は世界と戦う気持ちで一から作り上げていきたい。ジャパンを背負って堂々とした走りを世界でしたい」。まだまだ伸び盛りの20歳。次は世界に照準を定め、成長の余地を探っていく。【上田悠太】