「ナイスストップ!」と掛け声が飛んだのは同点で迎えた試合終盤だ。

侍ジャパンの強化試合・楽天戦。8回2死一、三塁、マウンド上には千賀がいた。何があっても後逸だけは避けなければならない場面。女房役の梅野は途中出場の田中貴を2ストライクと追い込むと、迷うことなく2球連続で「お化けフォーク」を要求した。球界屈指の落差、鋭さを誇るショートバウンドを立て続けにブロック。懸命に体を張り続ける姿を仲間から労われたのだ。

その後も2死満塁の場面でショートバウンドを難なく2度ストップ。千賀と組んだ42球のうち、計6球のショートバウンドをすべて止めてみせた。

「ひどいボールばかり投げましたけど、しっかり止めていただいて…。阪神でも外国人投手がそういうボール(落差のある球種のショートバウンド)をたくさん投げてきていたからと話していたので、頼もしいなと思いながら投げていました」

登板直後、千賀は事前のやりとりを少し明かした上で、初めてコンビを組んだ相棒に感謝していた。

大学日本代表の経験があるとはいえ、プロでは初の侍ジャパン招集。強化合宿合流日となった18日から7日目、だいぶ投手陣とのコミュニケーションが進んでいるのだと想像がつく。

球宴中から甲斐との情報交換を続け、合宿期間中も暇を見つけてはパ・リーグ投手の映像で球種や軌道、配球をチェックしてきた。

「実際に球を受けてから話した方が相手も話しやすいし、思ったことを伝えやすい。この合宿、強化試合の中で感じたモノをもっともっと共有していきたい」

代表合流直後の宣言通り、ブルペンでも積極的に投手陣と距離を詰めてきたのだろう。

この日、千賀は三塁に走者を置いた場面でも、フォーク要求に思い切り腕を振っていた。マウンド上の表情と言葉を確認した限り、「もし後ろにそらされたら」という不安は感じられなかった。それは阪神投手陣の誰もが認めるブロッキング技術について、この短期間で日本代表投手陣からも一定の信頼を勝ち取った証しとも言える。

侍ジャパンデビュー戦は7回表の守りから。勝ち越しの2点を奪われ、初打席も中飛に終わった。本人からすれば、必ずしも満足のいくゲームではなかったかもしれない。ただ、東京五輪本番に向けて、捕手梅野の長所を再認識させる3イニングになったことだけは間違いない。【佐井陽介】