夢舞台でも、平常心を保った。侍JAPAN開幕投手を任された山本由伸投手(22)は6回2安打無失点と力投を見せた。球数88球で5回2死から4者連続三振を奪うなど、9奪三振を記録した。

「コンディションを整えて、ベストパフォーマンスを出せるように準備して挑みたい」

万全で臨んだオリンピック初戦。初回は珍しく制球に苦しんだ。1死から安打と死球で一、二塁のピンチを迎えると一瞬、首をかしげて、捕手のサインに鋭く目を細めた。真上にある太陽のまぶしさ、日の丸を背負う国際大会の重圧…。それでも「大好きな野球を楽しむ最高の舞台」とマウンドでは動じない。ドミニカ共和国の4番フランシスコをカウント3-2から内角低めの直球で二ゴロ併殺に封じると、いつものようにグラブをたたき、白い歯を見せた。

ベンチに戻る際は、バッテリーを組む甲斐と並び、歩幅を合わせる。重視する「捕手との対話」で緊張の糸が解けた。「いつも自然体で投げられるように、調整や(登板前の)ルーティンは気にしない。試合中も決めごとは作らない」。胸の鼓動が落ち着いた、2回からのマウンドは投球モーションの途中でグラブを“ポン”とたたく動作が戻った。

「ノンエリート道」を駆け上がる。今季はオリックスで自身初の開幕投手を務めたが、高校時代に甲子園出場経験もなければ、順位を争う場面での熱い登板も多くない。19年プレミア12では救援起用で世界一に貢献し「やっぱり、勝つってすごく気持ちがいい!」と歓喜を味わった。今回の東京五輪は大役抜てきに、堂々と胸を張った。

「どの試合も楽しむだけ。野球を始めた頃から、楽しさは、ずっと変わらないです。速い球を投げたいとか、遠くに飛ばしたいとか…。考えれば考える回数が多いほど、ワクワクしてくるんです」

探究心は止まらず、地球の裏側のベースボールも“視察”した。まだ20歳だった、18年12月。ドミニカ共和国で開催されたウインター・リーグを現地観戦した。理由は「もっとレベルアップしたい。どんな野球をしているのか、見てみたくなった」と目を輝かせた。

さらなるステージへ、労をいとわない。成田空港から米国ニューヨーク経由で現地へ。片道20時間以上、ほぼ1日かけてのフライトに「大人になって忘れかけていたものを思い出させてくれた」と収穫があった。

奇遇にも人生初のオリンピックでドミニカ共和国と対戦。ドキドキの先発マウンドでも、ふと初心に立ち返った。目指す場所は頂点、首にかけるのは金メダル-。山本が、また1歩、足跡を刻んだ。【真柴健】