「神童」のイチ押し女子ボクサーがいる-。3日にヨルダンの首都アンマンで開幕する東京オリンピック(五輪)のアジア・オセアニア予選で、男女11階級が出場枠獲得に挑むボクシングの日本代表。注目は女子フライ級の並木月海(21=自衛隊)、日本女子初の五輪出場に最も近い、メダル候補だ。

その幼なじみで親交厚いキックボクシング界の神童こと那須川天心(21)に、小柄ながら強烈なパンチ力を誇るサウスポーの強さの秘密、素顔を証言してもらった。

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「パンチいま、めちゃめちゃ重いです。男子でも、普通に倒れますよ。それぐらい重い。小柄ですけど、すごく筋肉ついてて。本当に重いです。ガードの上からでももらうの嫌です。よけないと」

決してリップサービスではない。那須川は体験談で並木の一発の怖さを語ってくれた。知り合ったのは幼稚園年長にさかのぼる。同級生、同じ千葉県の出身の2人は、北支部の空手大会の決勝で初対面した。那須川のキックがヘッドギアをつけた並木を直撃、つけていたグローブも吹っ飛んだ。そこから意気投合、今でも交流厚く、スパーリングや、技術の意見交換もする仲だ。

中学途中からボクシングに専念した盟友に「月海はパンチの選手じゃないのに」と懸念もしたが、すぐに心配は吹っ飛んだ。花咲徳栄高でも全国で勝ち進む。「『へっ?』ってなりましたよ」と懐かしむ。実際に手を合わせれば理由は明確だった。そのパンチ力。女子では珍しい“倒し屋”の源を「足腰が強い。あとは回転力もすごいから」と分析する。空手のキックで鍛えた下半身の力を、うまく拳の先に伝えている、「そのアドバンテージがある」とみた。

性格も強さを助ける。「すごい真面目。練習する時は、自分にすごく聞いてくる」。貪欲な吸収力。空手時代はずぬけた選手ではなかったという。「すごい努力をしてきているのだと思う。尊敬する部分がある。僕も負けたらだめだな」と逆に力をもらうこともある。

自身は格闘界で駆け上がってきた。五輪は「出たかったですよ」。東京では空手が採用されるが、「時代を恨むしかないですね」と素直に語る。だからこそ、「代わりにすごい有名になってほしい。金メダルとってほしいですね」とエールを送る。同時に、「五輪取って、キック転向ですよ(笑い)。やらせるしかないですよ」と勧誘計画も。それくらい認める仲間。「彼女はほんと真面目ですし、頑張ってるんで、力みすぎず、リラックスしながら試合に挑んでほしい。まあまあ、五輪でしょ、ぐらいでやれば。良いマインドで!」。そう言葉を送り、“神童印”の拳が五輪でうなる日を確信した。【高場泉穂】

◆並木月海(なみき・つきみ)1998年(平10)9月17日、千葉県成田市生まれ。4人きょうだいの末っ子で、姉と兄2人の影響で幼稚園の年中から空手を始める。中学入学時に「普通の女の子として過ごしたい」と格闘技から離れたが、「飽きてしまった」と1年後にボクシングを開始。花咲徳栄高から自衛隊に進み、18年世界選手権銅など。右利きのサウスポー。153センチ。

◆アマチュアボクシングの試合形式 各階級ごとにトーナメント制で順位を決める。試合時間は3分×3回で、5人のジャッジによる各回10点方式の採点で勝負を決める。著しい実力差や医師による続行不可能の判断をした場合のレフェリー・ストップ・コンテスト(RSC)、ダウンして10秒以内に競技を続行不可のKOなどでも勝敗が決まる。短期決戦のためプロとは異なり、初回から積極的な攻防が見られる傾向にある。男子はヘッドギアなし、女子はありで行う。

◆ボクシングの東京五輪アジア・オセアニア予選 アンマンで3月3日から11日まで男女13階級で実施。日本は男子6、女子は全5階級に参戦する。当初は2月に中国・武漢で開催予定だったが、新型コロナウイルスで変更になった。階級別で出場枠が異なる4~6枠で、並木が出場する女子フライ級(48~51キロ)は6枠。逃せば5月の世界最終予選(パリ)へ。日本は開催国枠で6枠(男子4、女子2)があり、自力で獲得できない場合の最低限出場数になる。予選で獲得した分だけ開催国枠は減る。女子は12年ロンドン五輪から採用されたが、日本は過去2大会で出場なし。今予選で第1号となるか注目される。

○…並木は25日に日本を出発し、アンマンで最終調整を続けてきた。「日本より暖かく、良いパフォーマンスができそうです。日の丸を背負い頑張ります」と士気高く決戦に備える。出発の空港では那須川との練習写真を見返して、「本当に強いですからね」と一言。格闘技界を席巻し続ける姿を間近にしてきたが、「憧れというより、追い抜きたいですね」と燃えていた。