「64年の東京はその時の東京、2020はそれしか出せない何かはある。目標として置くは良いと思う。そこを超えるより、僕はやっぱり、いまのチームで新しい歴史に名を刻める演技や、そういう名場面を作っていければ良いのかなと思います」。

体操男子で五輪個人総合2連覇の内村航平(31=ジョイカル)らしい言葉だった。

東京オリンピック(五輪)で鉄棒に専念し、4度目の五輪出場を決め、現在は都内で団体総合メンバーとともに合宿に入っている。24日、オンラインで取材に応じると、1カ月先の母国五輪で目指すものを語り出した。

話題は合宿の開始日の全体ミーティングで振り返った1964年大会のこと。団体総合、個人総合(遠藤幸雄)、平行棒(遠藤幸雄)、つり輪(早田卓次)、跳馬(山下治広)の5つの金メダル、個人総合(鶴見修治)、床運動(遠藤幸雄)、平行棒(鶴見修治)、あん馬(鶴見修治)の4つの銀メダルの計9個のメダルを獲得し、「体操ニッポン」の強さを世界に示した大会。

2度目の「東京」でそれを超える結果を目指そうという声があった。ただ、内村の経験に裏打ちされた持論は、少し違った。

「個人的には違うかなと。体操はルールも変わる。僕はリオ五輪で『アテネ五輪の冨田さんの着地を超えたい』とずっと言っていたけど、結局無理。自分たちで新しく作るしかない。アテネはアテネだし、リオはリオ」。

歴史に残るものは単純にメダルの個数では計れない。それは超えるものではなく、作っていくもの。そんな確信が、「名場面を作っていければ」との誓いに通じる。

日本代表として、そうありたい。鉄棒に専念したが、いまは若い団体総合メンバーの支えになろうとしている。「やっぱり結果と立場がそうさせているかな。意識的より。五輪も2連覇してるし、ましてや4大会目ですし、過去に日本で一番経験している選手かなと。今後背負っていく選手に自分の経験は伝えないと。でも、まあ、みんな若くてもちゃんとできてます、基本的には。そこがすごいなと」。10代の橋本大輝、北園丈琉、24歳の萱和磨、谷川航。「かなり団体の金は近い。最高の4人が集まっている」。若さも勢いもある後輩を頼もしく感じている。

「もう4回目なので、特に。特別な何かに向かうより、変わらず、目の前の試合全力でやる。変わってないです。いまも状態としては五輪に向かうより、目の前の1つの試合に向かってやっている感じです」。その落ち着きぶり。最も頼もしいのは内村で間違いない。新たに歴史をつくるため、最終仕上げの残り1カ月になる。

○…10代2人、24歳が2人の団体メンバーで、次代のエースと期待される橋本。4月の全日本、5月のNHK杯の選考会を首位通過し、個人総合の金候補にまで急成長した。「練習中から声かけて応援したり、雰囲気づくりは率先してやるようにしてます」と若手らしさもありながら、「出場する種目は自分がトップで、チームへの勢いづけ、優勝に貢献できるように」と強気もみせた。