リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)後に試合模様が激変した競技がある。五輪最終日の8月8日に決勝が行われる新体操団体総合だ。18年のルール改正で技の難しさを示すDスコアの上限が撤廃され、複雑な技をいくつ詰め込めるかの勝負が加速。金メダル候補の日本代表「フェアリージャパンPOLA」も2分30秒の演技に、数々のオリジナル技を繰り出す。「世界に誇る日本のすごい技」第2回は、妖精たちの美技に迫る。「ランドセル」「クルリンパ」「ミルフィーユ」とは?【取材・構成=阿部健吾】

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5人が手具(東京五輪はボール、フープ・クラブ)を使って連係し続ける新体操の団体。投げて、取って、動いて。音楽に合わせて、抜群の柔軟性と操作技術が、見る者を魅了する。この3年間、その演技風景が様変わりした。「技が5秒に1回から3秒に1回にですね」。強化トップの山崎浩子本部長はリオ五輪と東京五輪の演技の違いを端的に説明し、「競技として全然変わりました。打ち上げ花火大会です」と例える。

18年のルール改正が激震だった。得点は難度を示すDスコアと技の正確性、音との調和を示すEスコア(減点式)の合計で算出される。どちらも10点満点だったが、改正後にはDスコアの上限が撤廃され、青天井になった。複雑な連係技をどれだけ多く詰め込めるかが問われ、演技のスピードも増すことに。結果、現在の日本代表は「3秒に1回」の演技構成になった。では、どうすればDスコアの得点が上がるのか。

「点数を高く取ろうとすると、人の上を跳んだり、手具の中をくぐったり。また、手具を視野外で投げるとかキャッチする、あるいは複数投げですね。手具を2個投げる。ということなどを毎回やると1つの連係技が0・7、0・8点とかになる」

手具を投げて転回するのが1人でなく2人以上だと0・1点、1人が2個以上の手具を投げると0・2点、手以外で手具を投げると0・1点、視野外=後ろに投げると0・1点などなど。多くの加点要素が1つの技につまり、それが次々に続いていくことになる。

5人が複雑に絡み合う動きは、定番がない。各国が独自色豊かに技をつなぎ、演技を作り上げていく。そして、現在の日本代表は世界のトップレベルの難しい連係技を実演できる。19年世界選手権では、団体総合で44年ぶりの銀などメダル3つを獲得し、東京五輪では金メダルが期待されているフェアリーたち。そのボールの技を5月のテストイベントで杉本早裕吏主将に聞くと、3つの名前が出てきた。

「『クルリンパ』と『ランドセル』に関しては点数を上げてないんですけど、『ミルフィーユ』を、前は竹中選手が(ボールを)投げなかったんですけど、投げるようにして点数を上げてるので、そこは難しくなっているんですけど、そんなに確率も悪くないし、精度も良いので、ちゃんと練習してさらに上げていきたいです」

それぞれを解説する。

 

■序盤の見せ場ランドセル

ボールの技の中でもひときわダイナミック。2人が1組で、A選手が前屈したB選手に向かって前回りするように回転し、そのまま背中合わせに背中に乗っかる。A選手はその姿勢で投げられたボールを脚でキャッチする。

B選手役の松原は「上に乗る選手と息が合わないと、衝突してしまう。あとは前転するように上の人は体を丸めて、下に入る人も、下から入り込むような形で息を合わせてます。転んでしまうことも最初はあったんですけど、回数を重ねると、背中と背中でぶつかることなくスッと入り込むことできる。今は大丈夫です」と習熟具合を語る。演技序盤の見せ場となる。

■息を合わせてクルリンパ

ダチョウ倶楽部の上島竜兵の帽子技…、ではなく、こちらも2人1組の技。1人がボールを投げてから、手をつないだ前方の選手の股下から滑り込むように前に移動しながら、つながった手を回転させて体を鋭くひねる。そして、そのまま座の姿勢で脚の間でボールを受け取る。瞬間的に、2組が同タイミングで同じ動きをする素早さを擬音で表すなら、まさに「クルリンパ」。

■ラストは大技ミルフィーユ

お菓子から名前を拝借した演技最後の見せどころ。3人が縦に並び、2人目がボールを投げた後に逆立ちしながら先頭の背中に乗っかり、そこに同じくボールを投げた最後方の選手が乗り込んで、まるで3層を作るように前方に回転しながら移動する。回転した2人は別選手からタイミング良く投げられたボールをそれぞれ背中、脚でキャッチして、ポーズ。これで2分30秒の「花火大会」が終了となる。なお、杉本主将が語った難度アップは、2人目の竹中選手が背中越しの視野外でボールを投げる部分。金メダルを目指して、さらに難度を上げている。

(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「東京五輪がやってくる」)