24分超の激闘が幕を閉じた。男女14階級で唯一、決まっていなかった代表を決める日本柔道史上初のワンマッチが行われ、17年から世界選手権2連覇の阿部一二三(23=パーク24)が勝った。

19年世界王者の丸山城志郎(27=ミキハウス)を延長戦の末に大内刈りの技ありで下し、来夏のオリンピック(五輪)代表内定を勝ち取った。男泣きした。

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開始1分で「別人だな」と思った。阿部選手が大きくスタイルを変え、丸山選手対策に徹した。普段は担ぎ技を強引に狙う男が、引き手を持たせず、内股、ともえ投げを警戒して上体を前傾。投げる、ではなく、投げられない姿勢から足技を出し、指導を狙った。それを24分間、一瞬たりとも妥協しなかった。過去7戦を踏まえた戦略を立てた。

丸山選手から学んだものだ。豪快に投げて勝てていた時には気付けなかったことを、対戦を通して体得した。技が決まらなかった時の消耗、不安が弱みとなって突かれていたが、受け流すことも耐えることも「勝つために必要」と肌で教わり、柔道の幅が広がった。

阿部選手が18年に世界を制した時は五輪も決まりかと思ったが、そこに現れた丸山選手に弱点をあぶり出され、ステージを2つも3つも上げてもらった。史上初のワンマッチも好都合だった。国際大会では対戦までの過程で心身の状態に起伏が生じるが、今回は先述の対策だけに集中できた。

だから、あれだけの緊張感が途切れない死闘になった。最後も、つま先、親指1つの差が勝敗を分けた。阿部選手の大内刈り。延長戦の最終局面にもなれば仕掛ける際、もう疲労で足が浮いてしまってもおかしくない。浮いていれば丸山選手も小外刈りで返せていたはずだ。ところが阿部選手は24分を戦っても、つま先を畳につけていたから踏ん張れた。勝利への執念。あの場面で100%を出せたところにも成長を感じた。

丸山選手は、今までと反対に「内股で投げてやろう」という組み手になった感があるが、彼もまた、阿部選手と出会ったことで進化できた。両者反則負けからのワンマッチ再試合でもいいな、観戦していて終わってほしくないな、と思える素晴らしい決戦だった。(一般社団法人古賀塾塾長)