柔道の世界選手権が25日、東京・日本武道館で開幕する。20年東京五輪のテスト大会を兼ね、国内では10年大会以来9年ぶりの開催となる。昨年大会の女子48キロ級で、史上最年少の17歳345日で世界女王に輝いたダリア・ビロディド(18=ウクライナ)は、柔道発祥国での2連覇を狙う。強さと美貌を兼ね備えた「ウクライナの新星」に迫った。【取材・構成=峯岸佑樹】

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世界の柔道界に衝撃を与えてから1年-。強さを増したビロディドが大会初日の25日、「武道の聖地」こと日本武道館の畳に立つ。日本を含む各国が警戒を強める中、虎視眈々(たんたん)と2連覇を狙う。

18年9月20日。アゼルバイジャン・バクーでの世界選手権決勝で、ビロディドが17年世界女王の渡名喜風南(24=パーク24)に一本勝ちした。172センチの長身で奥襟をがっちりつかみ、長い手足を巧みに使った攻撃的な柔道で、24センチ差の元世界女王を得意の大内刈りで一撃。憧れの田村亮子の18歳27日を上回る史上最年少で世界女王の称号を手にし「自分の力を信じていた。夢が1つかなった」と号泣して快挙を喜んだ。一方で、田村、福見友子、浅見八瑠奈、近藤亜美ら数多くの世界女王を輩出した日本にとって、とんでもない強敵が現れた瞬間だった。

ウクライナ・キエフ出身。6歳まで新体操を習っていたが、現在のコーチである、05年世界選手権73キロ級銅メダルで五輪3大会出場の父ゲンナジーさんと、元柔道家の母スベトラーナさんの影響で柔道を始めた。男子とケンカするなど勝ち気な性格で、初めての大会で優勝する非凡さもあり、8歳から欧州の国際大会などで活躍した。その頃から「常に1番でありたい。1番以外はビリと同じ」との強い信念を持ち、「五輪金メダル」を夢に抱くようになった。

 

実力を身に付けると、9等身のモデル顔負けの美貌で「美しすぎる柔道家」として一気に脚光を浴びた。インスタグラムにはスラリと伸びた美脚や私服姿などを多数投稿し、現在約16万4000人のフォロワーがいる。好きな国の1つでもある日本には、国際稽古や出稽古などで年に数回訪れ、昨年6月には女子52キロ級世界女王の阿部詩(19=日体大)との2ショットもアップしている。各国のモデル事務所から多数の誘いがあったが「モデルをしている時間はない。柔道でたくさんの目標を成し遂げたい」と断ったという。

現在は、競技引退後のスポーツジャーナリストを目指して地元のキエフ大に通いながら稽古を積んでいる。大学では英語やイタリア語を学び、日々の楽しみは疲労回復や休息で利用する「サウナ」。長身のため減量も一苦労だが、海外メディアのインタビューで「柔道が好きでこの生き方を選んだ。食べたい物はたくさんあるけど、常に体重コントロールしないといけない。友人はオシャレして毎日出掛けられるけど、私は同じ人生がほしいとは思わない。特別な夢(=五輪金メダル)があるし、それをかなえることが出来ると確信している」と答えている。

 

今年3月のグランプリ・トビリシ大会(ジョージア)決勝では、17年世界選手権以来1年半ぶりの黒星を喫し、連勝が30で止まった。しかし、日本女子代表の増地克之監督(48)は「彼女を倒さない限り、東京五輪の金メダルはない。今大会も順調に仕上げてくるはず」と警戒心をあらわにする。2年ぶりの世界女王奪還を狙う渡名喜も「3連敗中だけど、ビロディド選手にも隙はあるはず。負けず嫌いな性格な分、空回りしないように気持ちをしっかりコントロールしたい」と冷静に対応する構えだ。

ビロディドは、東京五輪に対して「特別な思い」がある。ウクライナで女子の五輪メダリストは過去にいない。男子の銀メダルが最高で、金メダルとなれば同国初の快挙となる。そのためにも、五輪前哨戦の今大会は2連覇するために強い覚悟を持って乗り込む。異次元の強さと美しさだけでなく、国の誇りを背負う18歳は、憧れの父がなし得なかった大きな夢に挑む。

<ウクライナの美人事情> ウクライナは「世界一の美人大国」とも呼ばれる。大手旅行会社の調査で、ビロディドの出身地の首都キエフは「世界で最も美女が多い街」に選ばれたことがあり、世界有数のモデル発掘地帯としても知られている。欧州とアジアの中間に位置し、トルコ系やペルシャ系などのさまざまな民族に侵略を受け、独特の美しさにつながったとされる。

 

◆ダリア・ビロディド 2000年10月10日、ウクライナ・キエフ生まれ。6歳まで新体操、8歳から柔道の大会に出場。44キロ級で15年世界カデ(17歳以下)優勝。48キロ級で17年欧州選手権、18年グランドスラム(GS)パリ大会、同世界選手権優勝。今年3月にウクライナ日本大使館の観光親善大使に就任。世界ランク2位。左組み。得意技は内股、大内刈り。172センチ。

 

○…ビロディドに勝った男がいる!? 01年世界選手権男子73キロ級銀メダルで、男子代表中量級担当の金丸雄介コーチ(39)は、07年世界選手権3回戦でビロディドの父ゲンナジーさんに優勢勝ちした。金丸氏は「お父さんに負けた記憶はない。(サンボをいかした)ロシア系の肩車などを使い、娘さんのようなキレイな柔道ではなかった。柔道スタイルの違い以上に、あれだけ美人で強い娘さんがいることに驚き」と苦笑いしていた。