男子66キロ級の阿部一二三(23=パーク24)と妹で女子52キロ級の詩(21=日体大)が、同日に金メダルの快挙を成し遂げた。性別の異なるきょうだいが、五輪のメダルを取るのは日本初。詩は決勝でライバルのブシャール(フランス)に延長の末、一本勝ち。52キロ級で日本初の金メダルを獲得した。一二三は決勝でマルグベラシビリ(ジョージア)に優勢勝ち。66キロ級では08年北京五輪以来となる3大会ぶりの金メダルとなった。

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詩は金メダルを獲得した瞬間、両手で力強く何度も畳をたたいて感情を爆発させた。「この五輪だけを目指して努力してきた。やっと報われた…。決勝が終わった後は初めてのような感覚が舞い降りてきた」。取材を受けながら、止まらない涙を必死にぬぐった。公言し続けた「兄妹五輪優勝」を実現。兄一二三の勝利を笑顔で見届け、表彰式を待つ間は2人で「おめでとう」と言葉を掛けながら抱き合ったという。

決勝の相手は因縁のブシャール。16年12月のシニアデビュー以降、唯一黒星を喫したライバルだ。延長4分27秒。一瞬の隙をついて最後は進化の証しである「寝技」の崩れけさ固めで勝負を決めた。

挫折があって今がある-。2つの敗北が「柔道人生を変える」転機となり、成長を加速させた。1つ目は、夙川学院1年の全国高校総体1回戦。小学、中学と全国制覇して初戦敗退は「記憶にない」レベルだった。道場の隅で1週間ぼうぜんとして、現実と向き合えず悪夢となって苦手の寝技を特訓するきっかけとなった。苦手をつぶすことが東京五輪への近道と信じ、寝技習得のために単身出稽古で猛特訓。「寝ても勝てる」スタイルを確立した。

2つ目は、ブシャールに敗れた19年11月のGS大阪大会決勝だ。優勝すれば五輪代表内定の大一番で敗れ、対海外勢48連勝中だった記録もストップ。「神様の試練」と号泣し泣き崩れた。18、19年世界選手権を制し、組み手や技の入りを徹底的に研究され、壁にぶつかった。コロナ禍以降は得意の担ぎ技をいかすための足技習得に励み、柔道の幅を広げた。

5歳で競技を始めてからタイトルを総なめした天才柔道家にとって、敗北は成長の糧になった。高校時代に絶対的な強さを求め「怪物になる」と誓いを立て、「五輪で優勝するまでは本当のチャンピオンではない」と心に言い聞かせてまい進してきた。負けん気が強い天性の勝負師が経験した価値ある2敗。挫折を乗り越えられたからこそ、夢の五輪王者に上り詰めた。「怪物伝説」がいよいよ始まる。【峯岸佑樹】