「完全な形」の東京オリンピック(五輪)が、1年後に延期された。安倍晋三首相は24日夜、延期検討に入った国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長と電話で会談。新型コロナウイルス感染拡大で年内開催を見送り、来年夏までの実施を目指すことを決めた。五輪が延期されるのは124年の歴史で初めて。26日にスタートを予定していた聖火リレーも中止となるが、大会名「TOKYO 2020」は変更せず、大会規模や参加人数、チケット、ボランティアなど大枠を変えないで開催を目指す。

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延期の提案は、日本側から行った。安倍首相が「おおむね1年程度を軸に検討していただきたい」とバッハ会長に要請、同会長から「100%同意する」と返答を得た。両者の間で「遅くとも21年夏までに開催する」ことを確認。会談を終えた同首相は「日本は開催国の責任をしっかりと果たしていきたい」と話した。

急転だった。IOC、日本側ともに「予定通りの開催」を繰り返してきたが、ここ数日で状況は一変。各国オリンピック委員会や競技団体、選手から延期を求める声が噴出し、日本に対して「無責任だ」と非難もあがった。先手をとった延期提案は、開催国日本に対する各国や選手の信頼を取り戻す意味もあった。

さらに、IOC側に一方的に主導権を握られるのを避ける狙いもある。昨年10月にマラソンの札幌移転が突然決まったように、決定権を持つのはIOC。今回の延期検討も「蚊帳の外」に置かれるわけにはいかなかった。バッハ会長は「世界保健機関(WHO)の助言に従う」とした。官邸筋は「日本の頭越しで、IOCとWHOで中止を決めるかも」と不安視していた。

危機感を持った安倍首相は日米首脳電話会談で、トランプ氏から「日本で、かつ安倍首相の時に開催してくれ」との激励を取り付けた。米国は競技力、テレビ放送権を通じてIOCに強い影響力を持つ。米国との足並みの一致は外交上の強い推進力となり、中止回避を確かなものにした。

1年の延期は、選手への配慮だった。2年延期では代表選手が入れ替わり、影響が大きい。1年ならば代表となった選手のコンディション維持がギリギリできる。4週間と言われた延期決定を大幅に短縮し、早期に決断を下したのも選手のため。会談に同席した組織委員会の森喜朗会長は「アスリートあっての五輪。努力してこられた選手には、今年開催できずに大変に申し訳ない」と話した。

まだまだ問題は山積みする。聖火リレー、ボランティア、チケット…。延期は決まったばかりで、解決する問題は多いが、武藤事務総長は「フレームは変えずにやっていきたい」と話した。東京五輪は、1年後を目指して再スタートを切る。【荻島弘一】