「選手、NF(競技団体)の意見を集約することに意味があると思わない」

海外選手のSNS発信が広がり、国際オリンピック委員会(IOC)の延期検討表明から一夜明けた23日、日本オリンピック委員会(JOC)山下泰裕会長は断固として言った。アスリートの声は聞かない-。そう受け止められた発言の真意を後日、こう明かした。

「我々はホスト国。選手の声を集めて、いい格好をしても、我々には決定権がない。どの組織もそうだが、意見を集めて反映しないと失望を招くだけだ」

言葉足らずな面は否めないが、正論。そしてそれがJOCの限界でもある。

急転する事態に、NFはほんろうされた。日本水連は3月に5度の臨時常務理事会を開催。代表選考を兼ねた日本選手権(4月2~7日)の扱いは二転三転した。開催できるか、無観客か、日程短縮か、一発選考で選んだ内定選手はどこまで有効か。もし20人前後の内定選手発表後に1年延期になれば、全員が「幻の代表」なのか。坂元専務理事は「継続審議」と繰り返した。25日には1度は一発選考として強行開催を決定。その1時間後、小池都知事が会見で示した「感染爆発、重大局面」を見て中止した。青木会長は「これは厳しいな」と安全面を憂慮してトップ判断を下した。

選考会の延期、中止は相次いだ。その中で日本ボート協会は24日に4日後の選考会について「我々は開催します」としたが、同日夜にオリンピック(五輪)延期が決定。もはや今春の選考会を強行する理由がなくなり、中止した。

選手選考は混乱をきたす。実績、年齢、心情など挙げればきりがないが、選考の最優先事項は「五輪本番で活躍する選手を選ぶ」ことだ。判断するのは競技に精通したNF強化責任者の「プロの目」しかない。枠がある以上「幻の代表」も急激に成長した若手の落選もある。あるNF会長は「誰を選んでも、批判されることは覚悟してくれ」と強化担当者に伝えている。

延期が決まった24日朝、JOC関係者は「今日中に決まることはないでしょう」と言った。その10時間後に1年延期が決まった。IOCバッハ会長と安倍首相らの電話会談にJOCから同席者はいない。IOCは17、22、24日と電話による臨時理事会で重要事項を話し合った。日本に理事は0人。過去に清川正二氏、猪谷千春氏の2人がIOC副会長まで務めたが、今はIOC委員2人。ほんろうされるNFの姿は、IOCにおける日本の姿でもある。

JOCですら蚊帳の外という状況。IOC、政府、大会組織委員会、東京都のトップ級で空中戦が展開される中、なすすべがない多くの市民がいた。無償で大会を支える約11万人のボランティア、約1万人の聖火ランナーは交錯する情報に右往左往するしかなかった。【益田一弘】(つづく)