東京・中央区晴海の選手村は大会後に改修し、マンション約5600戸として売り出す。第2期販売は延期したが、既に販売済みの物件が900戸以上あり、23年3月に入居が始まる予定。現在、居住中の住居を売りに出す購入者がいたり、子どもの小学校入学と同時に引っ越そうとしていた住人にとっては無駄な転校が発生するケースが考えられ、さまざまな弊害が予想される。

大会関係者はこの補償について「都、組織委が賄うのは厳しい。国庫に頼るしかないだろう」と話す。そうなれば、東京のど真ん中に建つマンションに全国から集まった税金が充てられることになり、都外から反発を招く恐れもある。

このように全ての五輪関連施設で日程、経費、補償を洗い出す必要がある。17年上半期に大もめし、何とか落ち着いた経費の費用分担論争が都、組織委、国、地方自治体で再燃すれば、五輪の機運は再び急降下する。

史上初の延期は五輪そのものの在り方を再考するいい機会にもなる。五輪憲章に記された国際オリンピック委員会(IOC)の巨大な権限。同憲章に裏打ちされた開催都市との不平等ともいわれる契約。五輪の開催は、その権限や不平等を了承するということだ。

五輪憲章には「オリンピック競技大会はIOCの独占的な資産であり、IOCはすべての権利を有する」(第1章第7条第2項)、「IOCはオリンピック開催地契約が定める拠出金のほかは(中略)、オリンピック競技大会の運営、財政、開催について財政的な責任を負わない」(第5章第36条第2項)とある。この2つが基本概念で、IOCと開催都市間の契約が結ばれる。

具体的に、主な契約を見てみる。まず「大会組織の委任」(第1条)で、都、JOCは資金調達、運営の全責任を負わされる。「IOCに対する請求の補償と権利放棄」(第9条)では、問題が起きれば、都、JOC、組織委側が補償などの責任を負う。「契約の解除」(第66条)では、IOCのみが契約を解除し、大会を中止する権利を持つ。そして、「余剰金の分配」(第44条)ではIOCが20%を得るとなっている。

部屋を借りる賃貸契約で考えると分かりやすい。大家(IOC)は物件(五輪)を、借り主(開催都市)に貸すだけ。借り主は物件を自由に変える権利はなく、そこで起きたトラブルはすべて借り主の責任。不満があっても解約は言い出せない。しかし、大家は家賃、礼金、敷金はきっちりいただく。

今回のように不可抗力な事態が起きた時でも、開催都市や組織委は、何の決定権もない。これでは、どんなに理想や夢が崇高でも、今後、五輪を開催する都市はなくなる。IOCの権限、開催都市や各国オリンピック委員会の責任や負担を軽減し、バランス良く分散させるしかない。

日本は30年に札幌に冬季五輪を招致する計画だ。今後の五輪がオリンピズムの理想や夢に少しでも近づけるように、今回を教訓とし、全世界に五輪の変革を訴えるいい機会となる。それが、当事者となった日本が、ウイルスに打ち勝ち21年大会を成功させるとともに、五輪に果たす役目だ。【吉松忠弘、三須一紀】(おわり)