開幕まで半年を迎えた東京オリンピック(五輪)が、新型コロナウイルスの感染再拡大でまたも苦境に立たされている。国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会は今夏開催の方針を崩さないが、中止論や再延期を求める声が日増しに拡大。是非を巡って国内外で議論が巻き起こる中、大会理念は揺らぎ、スポーツを通じた平和運動や国際交流といった意義も問い直されている。

【危機感】

「われわれ選手だけが何かをやりたいと言うだけでは、ただのわがまま。東京五輪は国民の皆さんと一緒の気持ちになって初めて成立する」。陸上女子1万メートルで東京五輪代表の新谷仁美(積水化学)は世論に危機感を抱く1人だ。

自身は1度競技を離れて会社員生活を送った経験があり「選手は結果を出すのはもちろん、応援、支援がなければ生きていけない仕事」と自覚。長引くコロナ禍で倒産や失業が相次ぎ、医療崩壊の危機も叫ばれる今、五輪への風当たりは強い。多くの人から歓迎されない大会では「開催する意味がない」と言い切る。

共同通信の最新の世論調査では「中止」と「再延期」を合わせた見直し派は80・1%に上った。五輪に詳しい奈良女子大の石坂友司准教授(スポーツ社会学)は「これだけ感染が広がってしまうと、(国民の中で)選手の活躍の場を守るという視点よりも、自分たちの生活を守るという視点が優先するのは当然だ」とし、現状では開催は困難だとみる。

大会で感染が拡大するリスクもあり「五輪は本来コロナ禍の被害者なのに、今の状況を見ると、加害者のような位置付けになってしまっている。これ以上引っ張ると、五輪の価値そのものが信じ難いものになる」と警鐘を鳴らした。

【公平性】

逆風の中でも政府や組織委は望みを捨てていない。ただコロナ禍で開く大会は従来の祭典から大きく姿を変えることを余儀なくされる。

五輪ならではの国際交流の場である選手村は感染防止のため、滞在期間を厳しく制限。本来は異文化の人たちと自由に触れ合うことこそが五輪の大切な理念。この規定で開閉会式に参加できない選手も出てきそうだ。

感染のひどい国が参加を見送らざるを得なくなれば、真の世界一を決める五輪と呼べるのか疑問符がつきかねない。厳しい情勢で大会を強行することで、最も重要な公平性を損ない、皮肉にも五輪本来の価値を失わせる懸念もある。

【開催方式】

感染の抑制と世論の支持、運営方法の確立など乗り越えるべきハードルは高い。それでも組織委幹部は中止や再延期にした場合の影響が計り知れないとし「やり切るしかない」と言う。

中京大の來田享子教授(スポーツ史)は「開催か」「中止、延期か」の二者択一の議論にすべきではなく、実現可能な開催方式を模索することが重要だとし「その過程にこそ、五輪の精神がある」と指摘する。五輪には運営の課題に柔軟に対処した歴史があり「形が変わることは不自然ではない」。コロナ禍で重ねた工夫は「長い時間軸で物事を考えてみると(後世から)歴史的に評価されるものも出てくるだろう」と語った。