新型コロナウイルス感染拡大が収束しないまま、7月23日の東京オリンピック(五輪)開幕まで今日3日で残り50日を迎える。医療体制や選手を含む大会関係者のワクチン接種など、いまだに課題は山積みだ。コロナ最前線で働く医師は東京五輪開催について、医療的な見地からどうみているのか。コロナ重症患者の対応を行う循環器及び感染症専門の愛知医科大・後藤礼司医師(39)に聞いた。

-医療的に見た東京大会開催の課題は

「まず、ワクチン接種です。本来、五輪成功のためには、大会関係者は全員ワクチンを打った方がいい。今回のワクチンには、感染予防と感染拡大予防の両方に効果がある。重症化する確率は90%以上ない。全員ワクチンを打てば、ほぼ無敵状態でできます。国民感情と不安への配慮も必要です。政府主体で、国民を精神的に安定させる作業も同時に行うべきです。よって、今夏行うのなら、競技を遂行する最少人数での開催ではないでしょうか」

-「安心安全の大会」にはワクチンは必須

「コロナ禍でどうしても開催するなら、特別な理由がない限り、義務化すべきでした。選手でどうしてもワクチンを打てないとか、(重いアレルギー反応の)アナフィラキシーがある人はしょうがないと思います。打っていないのなら、それなりの隔離期間を必須とすることを徹底すべき。検査だけでは全然ダメです」

-海外からの大会関係者全員のワクチン接種が不可能な中での解決方法は

「ハワイに学ぶべきだと思う。ワクチンを2回接種していれば、10日間隔離を免除され、PCR検査だけで入国できる。同様のことをやればいいと思う。海外の大会関係者も自国でワクチン接種する方向に向かうはず。(IOC)バッハ会長など65歳以上の高齢者が来るなら、100%打ってきてもらった方がいい」

-国内在住の大会関係者全員のワクチン接種も無理な中、できることは

「どこまで行動制限と隔離をできるかです。ボランティアは2週間前から自宅に食事が届くとか、最小限の活動しかしない形で参加することでしょうか」

-選手は接種機会をどう捉えているのでしょうか

「期間中に効果を発揮するためには、2週間前に終えていないといけない。迷っている選手もいます。感染予防に働くワクチンがあって、PCR検査で陽性にならずに発症もせず、競技を遂行できる方をよしと取るのか。ワクチンを打った翌日に体調が悪くなることがダメだと思って、打たないことを選ぶのか。選手それぞれの判断になります」

-現段階で五輪のコロナ対策をどうみていますか

「現状では限りなく0点に近い。いまだに開催の基準も明らかにしていない」

-問題だったことは

「ワクチン接種率が上がらなかったこと。要はスタートが遅れたことが1番の問題です。開催国なら、世界に先駆け(いち早くワクチン接種が進んだ)イスラエルみたいな状況を作らないといけなかった。準備期間は十分あったが、本気度が足らなかった。五輪開催のためにも、海外からの帰国者を含め、不自由をかけるけど隔離は絶対だから守ってくれ、お願いしたい、とのメッセージもなかった。全部、後手に回った」

-観客上限はどれくらいが望ましい

「厳格化をどこまでやれるかによります。ワクチンを打っていて、行動制限した上で入ってくるならOKだと思います。ただ、行動制限を取るのも難しいですよね。観客を入れての開催は無理なのでは。保健所はスポーツイベントのクラスター認定が得意ではないこともある。(バスケットボール)Bリーグで、濃厚接触者の定義に合わない人まで対象となったことがあった。観客を入れたら、容易にクラスター認定が出てきてしまう可能性がある」

-現場医師として、実際に医療逼迫(ひっぱく)の実感はありますか

「逼迫しているんですけど、病院は満床になるとそれ以上は入れられない。実際、満床状態は続いています。皮肉な話をすると、受け入れられなかった患者さんの行く末を知り得ないんです。ある程度、絶望しています。政治も助けてくれないし、自分たちで身を守ることと、ワクチン接種が粛々と進むことを待つしかないんだと」

-日本の今後もワクチン次第

「そうです。接種2回を終えた国民が50%を超えて70%にどこまで近づけられるか。イスラエルでは新規感染者数が急にストンと落ちている。今回のワクチンは想像以上に上出来。接種が進めば、この1年で世界は変わっていくはずです」

-再延期なら観客を大幅に入れても問題はない

「もしも来年だったら、フルスタジアムでの開催も多分可能です。これまでと似たような感染管理をした上ですが、全世界的に7、8割までワクチンが打てたら、全世界から観客を入れた五輪ができたと思います。なので、余計に今年開催すべきなのかは意見が分かれてしまうのでしょう」【聞き手・近藤由美子】

<Bリーグではチームドクター>

後藤氏はバスケットボール経験者で、B1名古屋のコートドクターも務める。延期前までは東京五輪競技別医療ボランティアとして、会場担当医師を務める予定だった。今年はまだボランティア依頼はない。今後、依頼があった場合、「休みが取れる状況なら」受けるという。「僕の強みはワクチンを2回打っていること。一生に1度の機会だと思いますし」。さらに「アスリートも命懸けでスポーツをやっている。プロとしての仕事をしている人たちのサポートはできるだけしたい」と話した。

◆後藤礼司(ごとう・れいじ)1981年(昭56)10月1日、愛知県生まれ。藤田保健衛生大(現・藤田医科大)医学部卒。循環器及び感染症の2つの専門分野を持つ。20年3月まで総合大雄会病院感染症科部長兼循環器内科医長を務め、同4月から現職。