日本で、金メダリストを最も多く輩出している競技は何でしょうか? たぶん多くの人は柔道と答えるでしょう。70年代に世界を席巻した時代を知る人は体操と答えるかもしれません。近年だと女子が活躍するレスリング、または競泳…。しかし、答えは違います。バレーボールなのです。

金メダルの個数は、種目で数えます。個人種目でも団体種目でも同じ1個。金メダル獲得数だけを考えれば、柔道、レスリング、体操、競泳の「ご四家」が群を抜いています。しかし、メダルは選手全員に贈られます。ダブルスは2人、競泳や陸上のリレーは4人が「メダリスト」です。

バレーボールは1大会の登録選手数が各12人。64年東京大会女子の「東洋の魔女」、72年ミュンヘン大会男子の「松平一家」、76年モントリオール大会女子の「新東洋の魔女」。金メダル数は3でも、それぞれ12人ずつで金メダリストは36人になるわけです。ソフトボールは1個の金で、金メダリストは15人です。

64年東京大会で女子バレーが圧倒的な人気を集めたように、団体球技は盛り上がります。柔道は1日で終了。レスリングや競泳も2日で優勝が決まりますが、団体球技は何日もかかります。64年の女子バレーは開会式翌日に始まって、決勝は閉会式前日。その間、ファンを引きつけるのです。

と同時に、人数が多いことも盛り上がりの一因。12人いれば、家族も恩師もライバルも、出身校も出身地も、個人種目の12倍になります。全国的に盛り上がります。選手のドラマも12倍ですから、感情移入するファンも増えるわけです。

来年の東京五輪で金メダルが最も期待できる団体球技は、野球・ソフトボールでしょうか。12年大会以降実施されず、今回復活しますが、次の24年パリ大会以降は再び行われない可能性が高くなっています。「最後の金メダル」が競技人気に加われば、日本中が盛り上がることは確実です。

64年大会以降にバレーボールをする子どもが増え、68年メキシコ大会銅メダルでサッカー人気が爆発したように(長く続きませんでしたが)、五輪の成績はその後の競技の人気にもつながります。それぞれのメダリストが母校や地元に帰ってメダルを見せ、体験を話します。「メダル効果」もバレーなら12倍。団体球技は大きいということです。

人気が出れば競技人口も増え、運動能力の高い選手が集まる。五輪が「頂点」ではない野球やサッカーは別としても、他の球技にとっては今後を決める東京大会。マイナーと言われるハンドボールやホッケー、水球なども、活躍次第では競技環境がガラリと変わる可能性があるのです。【荻島弘一】