東京オリンピック(五輪)・パラリンピック組織委員会は五輪開幕1日前となる22日、開閉会式制作チームの事実上の監督だった演出家・小林賢太郎氏(48)を解任した。

お笑いコンビ「ラーメンズ」時代のコントで「ユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)」をネタにしていたことが判明し即日解任したが、開会式は当初の計画通り開催すると発表。開幕直前の大混乱を招いた全責任は自分にあるとした橋本聖子会長(56)だが辞任は否定した。

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開会式のクリエーターを巡る問題が、最後まで大会に泥を塗った。組織委は小林氏を開会式の約32時間前に解任。お笑いコンビ時代の98年にコントで「ユダヤ人大量虐殺ごっこ」という言葉をネタに使っていた。会見した橋本氏は即日解任した理由を「外交上の問題もある。早急に対応しないといけないと思い、解任した」と語った。

制作チームを巡っては、作曲担当だった小山田圭吾氏が「いじめ武勇伝」を複数の雑誌に語っていたことが明らかになり辞任。しかし「開会式が近いから」との理由で組織委は1度、続投方針を取った。

そこに大きな批判が集まり、今回は同じ轍(てつ)を踏まないよう即時、解任。橋本氏は小山田氏の事例を振り返り「早急に判断して解任判断をしなければならなかった」と後悔した。

連日「責任は私にある」と言い続ける橋本氏。「辞任する考えはあるか」と記者から質問を受けたが「大会が終わるまで、ご迷惑をおかけしないために、私としてはやり通さなければいけないと思っている」と否定した。

組織委は最後まで制作チームメンバーの「身体検査」を怠った。武藤敏郎事務総長は「小山田さんの件が発覚した後、関係者の調査をした」というが遅すぎた。「今朝(小林氏の件を)知ったということなので、それまでに認識することは、残念ながらできなかった」と説明。「正直なところ我々が調査するのは簡単ではない。昔の行動まで調査するのは実際問題として困難。ご理解いただきたい」と本音を漏らした。

ただ、小林氏は19年12月からクリエーティブディレクター佐々木宏氏のもとでパラリンピックの演出を担当。その後、20年12月に狂言師・野村萬斎氏の制作チームが解散し、佐々木氏が演出統括に就いた新チームに移行しても、佐々木氏の右腕として携わり続けた。

高い理想を求める五輪だからこそ、過去の事案でも人権侵害に関わる事例があればこのように社会から指摘を受ける。本人の聞き取りや外注調査のなどを試みる時間は1年半もあった。

昼の会見では開会式について「選手行進や聖火の点火だけとする可能性は」と問われ「早急に検討する」としていたが結局、組織委は午後8時45分にメールで通常開催を発表。「さまざまな分野のクリエーターが検討を重ねて制作したもので、小林氏が具体的に1人で演出を手掛けている個別の部分はなかった」との理由だった。橋本氏も昼間に「開会式はやらせていただきたい」と懇願していた。

都内のコロナ新規感染者はこの日、1979人まで増加。そこに度重なるスキャンダルで祝祭ムードと無縁のまま、23日に57年ぶりの東京五輪が開幕する。【三須一紀、木下淳】

 

◆開会式をめぐる人事

▽17年12月 開閉会式のプランを作成する「4式典総合プランニングチーム」が設置。川村元気、栗栖良依、佐々木宏、椎名林檎、菅野薫、野村萬斎、MIKIKO、山崎貴の8氏。

▽18年7月 前記の8人が開閉会式の演出チームへ移行。総合統括は野村、五輪統括は山崎、パラリンピック統括は佐々木の3氏が担当。

▽20年1月 菅野氏が辞任。所属する電通でのパワハラ行為で懲戒処分を受けていた。

▽20年12月 式典計画見直しのため7人のチームが解散。山崎、MIKIKO、椎名、川村、栗栖の5氏は活動終了。佐々木氏が新体制の総合統括となった。

▽21年3月 佐々木氏が辞任。タレント渡辺直美の容姿を侮辱する表現を演出チームのLINEに送っていたことが判明したため。MIKIKO氏が20年11月にしていたことも判明。

▽21年4月 佐々木氏の後任は任命せず、小林賢太郎氏が事実上のトップに。

▽21年7月14日 式典の制作の進行を管理するプロデュースチームの主なメンバーを発表。エグゼクティブプロデューサーは日置貴之氏、聖火台のデザインは佐藤オオキ氏。五輪開閉会式のクリエーティブチームに小林賢太郎氏、小山田圭吾氏らが名を連ねた。

▽21年7月19日 開会式のオープニング曲を担当していた小山田氏が辞任。過去のいじめ告白が問題視された。

▽21年7月22日 小林氏が辞任。