史上初めて1年延期となった東京五輪の聖火最終点火者は、女子テニスで4大大会4度の優勝を誇る大坂なおみ(23=日清食品)だった。日本、米国、ハイチと、3カ国に関連があり、テニスだけでなく、人種差別への抗議運動など、人種を超えた多様性の象徴として選ばれた。コロナ禍に苦しむ世界に、大坂の聖火は希望の光となる。

富士山をモチーフにした真っ白な聖火台を前に、大坂の笑顔は、いつもと同じだった。東日本大震災の被災地の子どもたち6人から聖火を受け取ると、少しだけほほ笑んだ。そして、試合終了のネット際で見せるようにお辞儀。軽快な足取りで、聖火トーチを運んだ。白く長い階段を上り、聖火台の“山頂”に設置された球体へ近づいた。ピンクをまじえて編み込んだ髪を手で払い、両手でゆっくりと点火した。

父のレオナルド・フランソワさんはハイチ出身の米国人で、母環(たまき)さんは日本人。大坂は、父の祖国ハイチ、母の母国の日本、そして人生の大半を育った米国と、まさに現代の多様性の象徴だ。自らも「私には3つの祖国がある」と話す。

国籍は日本と米国の2つを持っていた。ツアーでは長年、国を日本で登録してきた。大坂や家族は、無名の時から長年支援してくれた日本を選んだ。22歳の誕生日が迫っていた19年10月。東京五輪で日本を代表するため、日本国籍を選択した。

当初は旗手に興味を持った。19年全仏の時、「そんなことができるの? 頼まれたら、ぜひやってみたい」。その頃から、関係者には、旗手をやるにはどうしたらいいのかを聞きまくった。そして「絶対に開会式に出たいから、いいアイデア」と喜んだ。

今年の全仏2回戦を棄権した。4大大会で初優勝した18年全米から「うつ症状」に悩んでいたことを告白。世界中の注目に、勝ち続けなければならない重圧は、まだ20代の女性の心をむしばんだ。7月のウィンブルドンを欠場。夢だった東京五輪で、見事に復帰した。

多くの責任と役目を担い、人種を超え、大坂は最終点火者として、世界中の人々の心に、未来への聖火をともした。